1.夢小説

□ね
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ね(藤吉郎)

浅野は寧々の母親の妹が嫁いだ家で杉原家と同じく尾張国人衆の名家である。子供に恵まれなかったので、頭はアホだが顔はいい寧々を養女に婿養子を取ろうと思ったのだろう。祖母の血迷いで私はそれに巻き込まれてしまった。早く村に戻って寧々と替わらなければバレたら殺される…。

(しかし村に戻ろうにもどうする…)

お婆さまも見張っているし、屋敷から出られそうにない。こういうとき雅な御身分の方はどうするのだろうか…。誰かに手紙を託すとか?見合いの相手がびっくりするほどイケメンだとか言えば寧々は死に物狂いでこっちに来るのではなかろうか。単純な女だからな。

「寧々、親元を離れて気落ちしているのは分かるがもう少しお洒落をせんか。せっかく美人なのじゃから…。どれ、商人を連れてきてやったぞ」
「お洒落ならそのうちしますので放っておいてくださいませ」
「寧々〜」
「…分かりました。母上の前では恥ずかしいのでその者と二人きりにしてもらえますか」
「おおっそうかそうか。お洒落をする気になったか!母は嬉しいぞ!寧々!」
「はいはい…」

叔母を追い払って商人の男を手招きした。

「内緒話ですかな?」
「貴方、私の生家には行かれる?」
「杉原様のお宅にならこの後お伺いしようかと考えておりましたが…」
「気が向いたらいいのだけど、下女に吉子という娘がいるからその娘にこれを…」

男の手に手紙を握らせた。男はぎょろりとした目で握らされた手を見て、私の顔を見た。臭いのない男だ。もしかして忍とか?関わるべきではないかな…。

「面倒くさいわよね。やっぱりいいわ。忘れてちょうだい。お母上にも言わないで」

手紙を握らせた手から取ろうとすると、彼はそれを懐に入れてしまった。ああ、了承されてしまった。

「いえ、この藤吉郎身命に賭しましてもこの文を吉子とやらに届けて参りましょう」
「本当に?…ごめんなさいね」
「代わりにと言っては何ですが…」

…商品を買って欲しいのだろうか?体とか命が欲しいとか言われないうちに金で解決したい。

「うん、髪飾りを幾つか買ってあげる」
「毎度有り難く存じまするっ。
…不躾にございますが、その吉子とやらは姫様とどのような御関係で?」
「友達なの。ばあやの外孫だし素性に問題ないわ。でもばあやには秘密にしてね、私達のこと、あまりよく思ってないの」
「はい、畏まりましてございます」

藤吉郎という商人は不気味に笑みを浮かべた。よくわからないが、私はこの人に嫌われているらしい。殺意が隠しきれていない。手紙…悪用されないといいけど。

「…ありがとう藤吉郎さん」
「ははあっ」

あ、殺意隠れた。
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