1.夢小説
□漂流者
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り(3話)
「おう起きたか、頑丈な奴じゃのう…。縫うたばかりじゃ。あまり動くと死ぬぞ」
「!」
「きゃ!」
お兄さんが傍らに立て掛けられてあった刀を取ったので、私は慌てて壁際に逃げた。この間合いでは斬られてしまう…。一瞬オジサンの背中に逃げようかと思ったけど、正体が正体なので距離をとる方に賭けた。廃屋に吹き抜ける生温い風が頬を撫で、背中にひんやりと壁の温度が移る。ここで大丈夫だったろうか。
「誰だ!お前(ぬし)っ誰だ!!」
「誰だ?そちこそ誰ぞ」
オジサンも鉄砲を構えてしまう。
うああん…帰りたいよ〜。何で私ここにいるんだよ。有名じゃないのに何でここにいるんだよ!刃物も武器もあんな風に構えたことないよ!何でだよ〜。巻き込まれちゃうよ〜。いっそ外に出てしまうか。いや、この緊張感の中で外に出るほど心が鍛えられてない…。いや、斬られるよりか、撃たれるよりかは心なんて…。
「答えい、そちはどこの誰ぞ」
「!木瓜紋…織田家家中の物か?」
「家中ゥ!?虚けを抜かせ。俺が織田で織田とは俺よ」
「誰だ手前ェ!!」
「俺は信長。織田前右府信長である」
「!」
「きゃああ!ううう…」
斬った!振るった!刀の振るった風がぶわっときたぁ…。
「危ないのう、うつけが」
「うつけは貴様よ。信長だと!?信長公はとうの昔に死んでおるわ。なればやはりここはあの世で貴様は信長を騙るあの世の鬼じゃ」
「うわ!」
二人の間に矢が射られた。見ればそれは私の隣から射られたもので、ポニーテールのめちゃくちゃ可愛い男の子(?)がやったことだった。
「やめなされ」
「…ひっ」
男の子がこちらを向いた。来た!可愛いけど!弓を捨ててくれ!こわい!
「もう大丈夫ですよ」
「はっ…」
「目が覚めましたか、重畳重畳」
ピトリと頬に触れられたと思えば、男の子は織田信長らの所に行って、抜刀したままのお兄さんにそう言い、信長に鳥を差し出した。
「羽をばむしり候へ」
「む、うむ」
むしむしむしむし‥。
鳥の毛をむしる信長を眺める私とお兄さん。なんだこれ。
「御手透きか」
「あ、ああ」
「むしり候へ」
お兄さんもむしり始めてしまったぞ!
「貴方も」
「あ、はい…」
壁から離れ、男の子と信長さんの間に座ってまだ生温かい鳥の羽をつかんで抜いた。
むしむしむしむし…。
「なんだこれ」
お兄さんがぼやいた。