Puppy Loving You…

□T
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森を彷徨っていた。
行く宛もなく、ただうつうつと。
目を閉じれば脳裏に恐ろしい記憶が蘇る。
暗闇の向こうにぎらりと光る目、うーっうーっと地を這うような低い唸り声。
気づいた時には逃げ場を無くし追い込まれていた。
刹那、大きな翼が目の前に立ちはだかった。
恐怖のあまり固く目を瞑った。

狼の吠え声が聞こえなくなった頃、恐る恐る目を開け辺りを見回すと脚から血を流して母が倒れていた。
慌てて駆け寄ると大丈夫だと言うようにうっすら瞬きをした。
くちばしで優しく促され母の翼の下に潜って休んだ。

夜が明けて、朝日が上る頃。
珍しくその日は母より早く目が覚めた。

母さん、朝だよ、お腹が空いたよ。
母さん、母さん……。

くちばしで突っついても、体を揺らしても、母は起きなかった。
その目は固く閉じたまま、寄り添い合って眠った母の体は冷たくなっていた。
翼の下に潜っても氷のように冷たいまま暖かくなることはなかった。

どうしたんだろう、具合が悪いのかな。

雛は考えた。
何か自分に出来ることはないか。
その時、母がいつも餌を取るために狩りをしているのを思い出した。

きっとお腹が空いて動けなくなっちゃったんだ。
なら、僕が母さんのためにご飯を探してくるよ。

雛は嬉々として出かけて行った。
一人で餌を見つけてきたらきっと喜んでくれる、母も元気になる、そう信じて。

しかし、今は寒い冬。
食べれそうな虫や草木はほとんど無く、狩りをするにはまだ小さすぎた。

いつの間にか日が暮れ、また夜が来た。
空腹で今にも倒れそうになりながら森を彷徨っていた。

鬱蒼とした森を抜け、やがて広い草原に出た。
冬にも関わらず、そこには色とりどりの花が生き生きと咲いていた。

ああ、これなら食べられそうだ。
母さんもきっと……。

草花をいくらか持ち帰り、やっとの思いで母の元に戻ってきた。

しかし、母は食べなかった。
朝起きた時のまま、ぴくりとも動かなかった。

いつか、母が狩りをしてきて一緒に食べた獲物を思い出した。
血を流して、苦悶の表情を浮かべ、瞬きもしなかった。

世界にたった一人、放り出された気がした。

取ってきた草花は僅かですぐに底をついてしまった。
歩きすぎて痛む足や空腹をじっと耐え、母の翼の下で夜を凌いだ。

朝起きたらまた、何事も無かったかのように母が目覚める気がして。

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