Puppy Loving You…

□U
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がたんごとん、ロンドンの街並みはとっくに過ぎて列車の煤煙と共に置き去りにされ、窓の外はのどかな田舎風景が続いている。
どんより薄曇りの空を映した湖をガラス越しにじっと覗き込むと顔色の悪い自分の顔と目があった。
口に残る苦いような酸っぱいような不快な味のアタリ無しビーンズはまるで私の心を当てているよう。

いつからか自分の中に棲みついたこの気持ちが何なのか、理解するのにそう時間は掛からなかった。

彼からの手紙はいつだって魔法動物のことばかり。
嬉しくて、何度も何度も読み返したせいで便箋の角がよれてしまった。
書きたいことがありすぎて、でもあんまりたくさん書くと私の気持ちまで浮き上がってきそうな気がして、余計な事を考えて、結局いつもホームズの話ばかり。

親しげに話すニュートとリタの姿が脳裏にちらつく。

『リジーとはただの友達だよ』

ただの友達。
ただの友達っていうのはつまり、それ以上の関係は望んでないって意味?
確かに今のところそれ以上でもそれ以下でもないけど……
わからない。
自分がどうしたいかも、考えれば考えるほど自分の気持ちに自信が持てなくなる。

ニュートは私のこと、どう思ってるのだろうか。
まさか、女の子として見てもらってない……?
これまでを振り返ればそれも十分あり得る。
強引で、面倒で、可愛げのない後輩。
過去の数々の過ちを思い起こしひたすら悔いる。

「買ってきたよ、かぼちゃパイと蛙チョコとぺろぺろ酸飴」

ニュートが両腕に抱えた二人分の菓子を一つずつ確認しながら手渡す。

「ありがとう」

「どういたしまして」

ニュートがくしゃっと笑うと、それまでのモヤモヤはどこかへ消え去り、自然と私も笑顔になる。
彼の笑顔に胸を高鳴らせ、彼の一言に一喜一憂する。
幸せで苦しくて気が変になりそう。
いっそのこと伝えてしまおうか、そうすれば楽になれるだろうか。
もし、彼の気持ちは違ったとしても、今まで通り、いい友達でいられるだろうか。

彼が買ってきてくれたかぼちゃパイはまだほんわり暖かくて、舌が痺れるくらい甘かった。

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