Puppy Loving You…

□U
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こつ、こつ、こつ――。

意味もなく絶えず机に打ちつけられる指先と、反対にペンを握るもう片一方の手はだらりと投げ出され全く動く気配はない。
眼前にはシミ一つ無いまっ更な羊皮紙と分厚い教科書。
捲られたページは上から下までびっしり専門用語で埋め尽くされ、目の前がちかちかする。
教室の片隅でほこりを被った置き時計の針をじっと睨みつけていた。

カチリ、カチリ。

小気味よい音を奏でながら刻一刻と時を刻んでいく、退屈なこの時間に一歩一歩確実に終わりが差し迫る。

こつこつこつこつ――。

教室の前方で先ほどまで寝息を立てていた年配の教師と目が合う。
ぎろりと一瞥し、一つ仰々しく咳払いをしてから鷲鼻の上で引っかかっている眼鏡をくいっと持ち上げ、またすうっと目を閉じて眠りこける。
あまりに暇を持て余したのか、リタはとうとう諦めて教科書をぱたんっと閉じ、羊皮紙にインクを垂らして迷路を描き始めた。

時計が針を刻む音、ペン先が羊皮紙をカリカリ引っ掻く音、時折ページを捲る音に微かな息遣い。
常ならば気にも止めない些細な音が、近頃は何故だか無性に神経を逆撫でる。
ガタン、と椅子を引く音、直後にすぐ側を通り過ぎていったその人物を何気なく目で追う。
既に羊皮紙2枚分のレポートを完成させ、丁寧に畳んでから教卓の上にひとまとめにして積み重ねた。
数冊の本に羽ペンとインク壺を小脇に抱え、歩き出す。
リタの前で一瞬足を止めて羊皮紙を覗き込むと、呆れたような笑みを浮かべて軽く窘めた。
びっしりと描き込まれた細かな迷路は完成を目前としていた。

すぐ後を追うように授業の終わりを知らせる鐘が鳴る。
リタは羊皮紙を折り曲げてポケットの中に乱雑に仕舞い込むと、何かを思い立ったように席を立ち、教室を後にした。

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