Puppy Loving You…

□U
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初めて出会ってから、もうどれくらい経つのか。
まだ七歳か、八歳くらいの頃。
今でも色鮮やかにはっきりと思い出せる。
まだ純粋で、世間知らずの愚かな少女だった。

暑い夏の日。
見上げる空はどんより薄曇りで、今にも泣きだしそうだった。
犬を飼っていた、今でも時々思い出す。
白黒の美しい、立派なボーダー・コリー。
私の遊び相手にと、まだほんの仔犬の時に父がつれて家にやってきた。
名前は、アルテミス。
朝食後に、厨房で余ったソーセージやベーコンの切れ端をもらって、庭のアルのところに行くのが幼い頃の日課だった。

「おはよう、アル」

アルテミスは自分の名前をきちんと聞き分けることが出来た。
彼はとても賢くて、利口な犬だった。
アルがやって来てから毎日が楽しくて、彼と一緒にいるときは辛いことも悲しいことも忘れられた。
彼は大切な家族の一員で、私の唯一の親友であった。

―――

「お、お父様……アルをよそにやるって、どういうこと……?」

そのままの意味だ、父はいつも通り素知らぬ態度で言い放った。
母が跪いて、そっと宥めるように頭を撫でながら言った。

「本家のお祖父様がね、大変なご病気を患われて入院されることになったの。それで、お屋敷にお祖母様お一人にする訳にはいかないでしょう?だから、お祖父様がお元気になるまで、ここで一緒に暮らすことになったのよ」

「どうして、どうしてアルをよそにやらなきゃいけないの?」

「お祖母様は動物が苦手なのよ、アルのような大きな犬は特にね。でも大丈夫、お父様のお知り合いにとっても良い方がいてね、アルを引き取ってくださるんですって。ご家族みんな動物が大好きだそうで、息子さんが二人いて、下の子はちょうどマーガレットと同い年なのよ。それにあなたが寂しがるでしょうから、いつでも会いに来ていいと仰って下さったのよ」

「……いやよ。そんなの、絶対いや!どうしてアルを捨てなくちゃならないの?!私、お祖母様と一緒なんて絶対いやよ!他の子と私をいつも比べるし、お母様に意地悪言うんですもの、お父様だってご存知でしょ?!アルは、悪いことなんて絶対しないわ、そこらの犬よりずっとずっと賢いんですもの!」

父に対しての初めての反抗だった。
大抵の家がそうであるように、我が家ではその点特に、父親は絶対的で口答えすらした事もなかった。
父は怒りのままに声を荒げて、母はただただ泣くだけで、私は家を飛び出した。

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