Puppy Loving You…

□U
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――五年後、1918年。

船が鈍い汽笛を上げながら港に入ってくる。
のっそりとした線はまるで「白い鯨みたいだ」と心の中で呟く。
実際白い鯨を見たこともなければ、どれくらいの大きさなのかもよく知らないのだが。
ニュートだったら「エルンペントみたいだ」と例えるだろう。
そんなことが容易に想像できてしまって心が弾む。
しかし胸をよぎる不安がリジーの中の小さな気持ちをすぐにかき消していく。
戦地に赴いた恋人の無事をこの目で確かめるまでは、悪い考えが際限なく浮かんできて脳内に渦巻く。
船だ、船が帰ってきた。
人々が口々に声を上げて出迎えに走る。
降りてくる客の殆どは恰幅のいい、軍服を身に着けた兵士たち。
傷ついた者たちは支えられながらゆっくりとタラップを降りてくる。
家族の帰りに歓び、涙を流して抱擁する者たち。
しきりに誰かを探す呼び声があちこちから聞こえてくる。
リジーはそれらの人々には目もくれず、群衆をかき分けながら船の前まで進み出た。
ヒールの高い慣れないブーツを履いてきたことを後悔した。
戦争は終わった!と誰かが叫んだ。

「!……ニュート!!」

船を降りる乗客らの中に見知った姿を見つけ、名前を呼んだ。
青緑色の特徴的なコートと、トランクを手に持った、一際目立つ高身長。
リジーは思わず飛び出して駆け寄る。
人目も憚ることなく、右手に提げたハンドバッグも放り出す勢いでニュートの肩に抱きついた。
彼がホグワーツを去って以来、五年ぶりの再会であった。

「おかえりなさい」

一瞬の間の後に、恐る恐る背中に腕が回されるのが分かった。
呼吸、脈拍、生身の人間の温かさを感じとり、安堵して目頭が熱くなる。
「生きてる、生きてた」ただその二言で頭がいっぱいで溢れそうになる。
少し痩せた気がする、怪我をしたと言ってたがまだ痛むのだろうか。
ふと心配になって腕を緩める、不意に背中を抱く手に力が込められた。

「ただいま」

噛み締めるように絞りだされたその声は、今にも泣きだしそうなくらいに震えていた。

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