Puppy Loving You…

□V
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「お兄様は素敵な方ね」

帰りの道すがら、愛車のモデルTのハンドルを握るリジーが浮き浮きとした声で言った。

「え、どこが?」

反対にニュートは窓ガラスに額を押しつけてげっそりと疲れた様子で答える。

「ユーモアがあって、気配り上手で……家族思い」

「そうかい?」

怪訝な顔で首を捻るニュートを横目にリジーは笑った。

「あなたのことが心配なのよ、きっと。年の離れた弟だから、可愛くて仕方ないのね」

「遊んでるだけだよ、そうに決まってる」

信号待ちでスピードを落とし、車体がゆっくりと停車する。
いじけてこっちを見ようとしないニュートをちらりと一瞥すると、リジーは思い立ったように口を開いた。

「夕飯、どうしよっか……何がいい?」

無意識に自宅方向の車線にある飲食店を頭の中で思い浮かべる。
数秒の間の後に、捻り出された答えが一言。
「……りんご」
なぜりんご。
リジーがくすくす笑うと、ニュートは手を伸ばしてハンドルを握る彼女の手を取った。
ごく自然に指先を絡める動作に胸が高鳴る。

「実家から届いたのがまだ残ってる」

繋いだ指先にキスが落とされ、触れた箇所からじんわりと熱を帯びる。
一体どこでこんなことを覚えてきたの?
こういう雰囲気には未だに慣れない、どんな顔をしたらいいのか分からない。

「じゃあ買い物してかないと、りんごは食後にね」

「うん……」

赤信号がぱっと消えて青緑色に切り替わる。
進行の合図をきっかけに繋がれた手が名残惜しげに解放された。
窓の外を通りがゆっくりと流れていく。
夕暮れがもうすぐそこまで迫ってきてて、空に追いかけられるみたいに「早く帰ろう」と心の中で呟いた。

時々、彼が苦しそうな表情を見せるのに気づかないフリをしていた。
それは些細な日常の一コマの一部で、淡々とした仕事をこなしながら、ふと集中力が切れた時だったり。夕焼けに紅く染まるロンドンの街並みだったり。
向こうで何があったのか、どう過ごしていたのか。
4年経った今も、ニュートは何も語ろうとしない。
私は、ただ見守ることしか出来ずにいた。

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