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□いっぱい食べるキミが好き
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「……太ったの?」

は?
仕事の合間を縫ってやってきた、魔法省から程近い流行りのカフェ。
向い合って座る同僚がちらりと寄越した視線の先を辿れば、ブラックコーヒー一杯とビスケットを摘む侘びしいランチ。
ダイエット中なんだから仕方ない。

「は?」

「顔色が悪い、それに普段より刺々しい態度もビタミン不足からくるホルモンバランスの乱れと考えれば納得できる」

「刺々しい?」

「まあ僕は慣れてるけど、も……」

やばい、しまった。
表情が引き攣り、見る見るうちに顔に文字が浮かび上がってくるよう。
背が高くて、顔立ちも、まあそこそこ良いほうで、黙ってそこに立ってたらカッコいいのに。
私の恋人は驚くほど気が利かない、どころか人を苛つかせる言動に関してはもはや才能と言っても過言ではない。

「そ、そんな無理に痩せようとする必要ないんじゃないかな」

「うるさい」

「ごめん……」

冷たいアイスコーヒーを呷るように喉に流し込むと、舌の上で転がる独特の苦味にぎゅっと顔を顰めた。

「……せめてミルクは入れたほうがいいと思うな」

「取ってきて、あとガムシロ」

「はい、只今」

そそくさと席を立ち、程無くしてトレーを手にして戻ってくると、ミルクピッチャーとガムシロップと、クリームチーズのたっぷり挟まったサンドイッチを目の前に置いた。

「……頼んでない」

「僕が頼んだ」

「ドレス着れなくなったらどうしてくれるの」

「その時は、僕も付き合うよ」

私の恋人は気が利かない。
仕事も出来ないし、人付き合いも下手。
でも近々、私は彼と一緒になる。



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