Tell me love
□第4話
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心地いい匂いと、感覚。
何か優しいものに抱き抱えられている気分。
目をゆっくりと開ければ、そこには美しい顔──。
「え!?」
「目が覚めたか。あ、こら、暴れるな。落ちたいのか?」
美しい顔──とは、クロロの顔である。
ベッドで寝ていた筈の私は、いつの間にかクロロの腕に抱き抱えられていた。
辺りには高級そうな部屋…というより廊下が広がっている。
「ここ何処…!?」
「俺のマンション。」
チーンという軽快な音と共に、エレベーターが到着時、ドアが開いた。
「今日からお前は俺の家で暮らす。」
「な、なるほど。…あの、それより、降ろしていいよ?歩けるし。」
あと恥ずかしいし。
体を動かし、降りたいという意思をみせるが、
「駄目。」
と、クロロに拒否された。
その言い方が何だか可愛くて、つい笑ってしまった。
抱きかかえられたまま、エレベーターに乗って最上階の部屋の前についた。
「どうぞ、お姫様。」
冗談っぽく言われ、クロロに優しく降ろされる。
「ありがとう…」
かなり広い部屋で、私は呆気にとられていた。
こんな所で暮らすとは思ってなかった…。
窓から見える景色は、最上階だけあって壮観である。
「綺麗…。」
私がそう言うと、クロロは小さく笑った。
「気に入ってもらえて良かった。」
その笑顔はとても柔らかくて、思わず息をのむ。
「名無しの部屋はこっち。」
案内された私の部屋は、充分すぎる広さで、ベッドや机、クローゼットなど、生活に必要なものが揃っていた。
「……素敵すぎませんか。」
それぞれの家具、一つ一つが、私の好みとまるっきり合っていた。
私が常々“こんな部屋にしたい”と思っていた部屋そのものであった。
あまりの嬉しさと興奮で、クロロに抱きついてしまった。
「ありがとう…!クロロ!」
「随分積極的なんだな、今日は。」
クスクスと笑われ、自分が抱きついていることに初めて気づいた。
「あっ!ご、ごめん。テンション上がってつい…」
「別にいくらでもしていいんだけど。」
また顔が熱を帯びる。
こんな状態で二人きりで生活できるのか少し不安にだ。
「名無しの元の部屋で要るもの、少ししたら取りに行こうか。」
幸い今日は仕事がないからなと、クロロは続けた。
元の部屋とは、私が今まで暮らしてきた家のことである。
可もなく不可もないようなアパートの一室で、そこにはアルバム等の思いでの品が置いてあった。
非日常的な出来事がありすぎて、その辺のことを考えていなかった。
「うん。ありがとうクロロ。」
「コーヒー飲む?」
リビングに向かうクロロについていく。
「私、コーヒー嫌いなの…。苦くて。」
そう言うと、クロロはちょっと驚いた顔をして振り返った。
そして、頭を抱えてズルズルとしゃがみこんだ。
「無理、おもしろすぎ、お前…ッ」
何処がツボに入ったのか、肩を震わせ大笑いしている。
「そ、そんな笑わなくてもいいじゃん!」
何だか恥ずかしくて、そう抗議するものの、クロロは依然として笑っていた。
「はぁ…ッこんなに笑ったのは久しぶりだ…」
まだ若干笑いがおさまっていない状態でそう言っていた。
「クロロのツボがよくわからないよ…」
対する私は、少し呆れ気味に言った。
しかし、クロロが大笑いするのは意外だったし、それを見れたから内心ちょっと嬉しかった。
「じゃあコーヒー飲めないお嬢ちゃんにココア淹れてあげるよ。」
馬鹿にするように言ったクロロに、私は頬を膨らませて「どーも!」と言った。
クロロがアジトを離れてから、なんとなくいつもより明るい。
いや、なんとなくどころではない。
かなり性格が違って見えた。
団員の前ではボスとして振る舞っているからかもしれないが。
クロロに淹れてもらったココアを飲んで一息つく。
「甘〜、おいしい。」
「お子様には丁度いいみたいだな」
「もう!」
その後、クロロのコーヒーを一口もらって、チャレンジしたが、やはり苦くて飲めなかった。
今まで何度かチャレンジしてる私の姿勢は認めてほしいものだ。