Book 1(短編)
□昔よりも
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〈羽琉〉
自分には忘れられない人がいる。
中学3年の時に一緒のクラスになった長濱ねる。
頭が良くて、みんなに優しくて、優等生って感じの子で仲良くなれるかなって思ってたんだけど席替えで隣の席になって話すようになり、ねるの可愛さや、おもしろさにどんどん惹かれていた。
正直、ねるも自分のことを好いてくれてたと思う。
一緒に祭りに行ったり、遊びに行ったり、バレンタインでチョコレートも貰った。
でも、なかなか勇気が出なくて、好きって言えなかった。
中学3年の冬、親から転勤の話を聞いた。
4月からは東京に行くことになる。
急に決まったことらしく、受験先も東京の高校に急遽変えた。
誰にも伝えずに、東京に行くことを隠して生活していた。
卒業式の日。
式が終わり、教室にはほとんど友達は残っていない。
残っているのはねると自分だけ…
『もう、卒業か…3年間はやかったね』
「うん。3年が忙しすぎて1番早かった」
『本当に。もう二度と受験勉強したくないわ(笑)』
「高校、離れちゃったね」
『…うん。自分、ねるほど賢くないから』
「でも、第一志望、一緒の所やったやろ?
なんで、諦めたと?」
『…んー、何となく。入ってから大変そうじゃん』
「羽琉と一緒の高校にいけるかもって楽しみにしとったのに」
『……』
「羽琉、あのね、私…羽琉のこと、」
『…ねる、今までありがとうね。
ねると一緒のクラスの一年間が1番楽しかった。
高校にいっても、変わらないねるでいて欲しい。
じゃあ、時間だから帰るね』
「羽琉っ…」
そう言って走って教室から出る。
目から涙が溢れる。
ねるの告白を聞くこともできず、出て来てしまった。
…もう、会うことも無いだろう。
黙って長崎から出て行くこと怒るかな。
それとも、泣いてくれたりするのかな。
…自分との思い出はねるの心のなかに残るかな…
こうして、自分の初恋が終わった。
**********
東京に来て1年半。
最初は戸惑うこともあったけど、都会にももうなれて、今では高校生活を楽しんでいる。
「ねぇ、羽琉。これ受けてみれば?」
『は?自分がアイドルとか冗談きついわ』
「羽琉さ、ちゃんとすれば顔整ってるし絶対いけると思うんだけど。」
『ないない。芸能界興味ないし!』
「送るだけ送ってみようよ!」
『自分はやらないよ』
「私がしてあげるから!全部!」
『…勝手にどうぞ』
面倒くさくて、適当なこと言わなければよかった…
次々審査に通ってしまい、自分は欅坂46のメンバーになってしまった。
レッスンが始まり、いきなりバライティー番組も始まり…毎日が一瞬で終わってしまう。
そんな日々を送っていた。
メンバーはみんないい子ばっかりで安心している。
今日はけやかけの収録日。
楽屋ではみんなそれぞれ好きな時間を送っている。
イヤホンをつけて音楽を聴いていると、となりにふーちゃんが座った。
「羽琉ってさ、ずっと東京に住んでるの?」
『うーうん。高校から東京でそれまでは長崎にいた』
「メンバーで長崎の子っていないよね」
『東京出身なのに阿波踊りが特技な子もいないよね』
「羽琉…(笑)
あ、なんか今日のけやかけ変じゃない?
企画教えてくれないのって初めてだよね」
『隠しカメラじゃない?』
「いや、まだ早くない?(笑)」
収録が始まると、重大発表があるとのこと。
なんだろう…まだ欅が始まってまだ、3ヶ月しか経ってないのに、新メンバーが入るらしい。
みんなの動揺が手に取るようにわかる。
自分もドキドキして来た。
スタジオにVTRが流される。
えっ…これって…
心拍数が上がる。
VTRを直視できない。
なんで…
そして、スタジオにはいってきた新メンバーと目が合う。
「あっ…」
『…っ……』
これが自分とねるの再会だった。