short

□思わせぶり
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私が一番好きな時間は、夏の日の朝だ。


「んー、おいひぃ」


空が明るくて、起きたらリビングからお母さんが朝ごはんを作る音がして、制服に着替えて下に降りると美味しそうなサラダとトーストとベーコンと目玉焼きが置いてあって、食べ終わってゆっくりと飲む、高校生になってから飲めるようになったコーヒーも美味しくて。


「行って来まーす」


家を出れば温かい日差しに照らされて、ルンルンで鞄を振り回したくなっちゃうぐらい。



「…あ」


ふと前を見ると、見たことのある後ろ姿。背が高くてすらっとしていて、白いシャツからほどよく妬けた腕が伸びている。


走って追いかけても気がついてないのは、いつも音楽を聴いてるから。肩をポンポンと叩くと、ゆっくりとイヤホンを外しながらこっちを向いてニコッと微笑んだ。


「おはよ!」

『おはよ、紗夏』

「なあなあ、昨日告白されてたやろ」

『え、見てたん』

「偶然やで。また断ったん?」

『うん』

「何で彼女作らんの?そういうの宝の持ち腐れって言うんやで」



中性的な顔立ちで髪の毛も短くて男の子みたいな豆腐は、女子校であるうちの高校ではかなりモテる。俗に言う"イケメン女子"というやつ。告白されているところを何回か見たこともあるけど、全部断ってるみたい。女の子を好きになれないタイプなのかとも思ったけど、そうでもないみたい。


『何でって…。まあ、私は紗夏がいてくれたらそれでいい』

「あ、やばい。もしかして告白されてる?」

『アホか』


ぺちっと私のおでこを弾いて歩き出す豆腐。ちょっと待って!ってまた追いかけて手を握ったら『何なん』って笑いながらも握り返してくれた。


豆腐と恋人になりたいとか恋愛感情を抱いたことはないけど、傍にいて安心する存在。何だかんだいつまでも一緒なんだろうなって。




ずっとそうだと思ってた。
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