ボル版深夜の真剣文字書き60分一本勝負

□願わくば
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「もうすぐ今年も終わっちゃいますね…」


仕事終わり…アルベルトさんの自室でふと思いついて口にした言葉に、着替えを終えた彼が振り向く。


「まぁまだ1ヶ月ありますが…」

「気持ちの問題なんです!」


言いながらぐっと拳を握ると、アルベルトさんは一度瞬きをしてから困ったように微笑んだ。


「確かに、もう1年が経つのだと考えるとあっという間でしたね」


仕事の時とは違う、ゆったりとした動きで隣に腰を下ろす彼に、なんだか嬉しくなって頬が緩む。


「…どうかしましたか?」

「いえ、なんでも」


不思議そうに聞く彼にそう答え、私はついさっき思いついた質問を投げかけた。


「アルベルトさんにとって、今年はどんな1年でしたか?」

「そうですね…」


そう言って考えるように顎に手を当てたアルベルトさんは、少しして深くため息をこぼした。


「まぁ、相も変わらずロベルト様に振り回された1年でしたかね…」

「あぁ…」


思わず苦笑してしまった私にも、すかさず厳しい視線が飛んでくる。


「貴女も貴女です、ロベルト様がサボっていると分かっていながら話し相手になったり一緒に遊んだり…」

「ご、ごめんなさい…」


勢いに気圧されて謝ると、頭上で彼がフッと笑うのが分かった。

顔を上げると、柔らかな笑顔が目に入る。


「アルベルトさん…?」


呟いた私に、アルベルトさんは少し視線を逸らし…ゆっくりと口を開いた。


「けれど…貴女のおかげで、ロベルト様はいつも楽しそうにしておられる……そして、私も」


噛み締めるようなその言葉に、なんだか泣きそうになってしまって。

私は慌てて話を次に進める。


「じゃあ、アルベルトさんの来年の目標は?」


すると彼は先程と同じように考え始め、そして言葉を選ぶようにしながら話し出した。


「来年というより……これは、私の将来の目標になってしまうかもしれませんが…」


緩やかに言葉を切ったアルベルトさんは、続きを待つ私を見て、優しく笑ってから小さく息を吸いこんだ。


「立派な王となられたロベルト様を、貴女と共に支えていく……そんな夢を、いつか私は現実にしたい」


…言葉が出なかった。

執事として一生アルタリアに…ロベルト王子に仕えるアルベルトさんの未来図に、当たり前のように私がいて。

それが、とてつもなく…嬉しくて。

視界が滲み、ポタリ、と冷たい雫が膝の上にあった手に落ちた。

そんな私に、アルベルトさんはまた困ったように笑う。


「…この夢の実現には、貴女の同意も必要なのですが…」


優しく大きな手が、そっと私の手に重なる。

その温かさを感じながら、私はゆっくりと頷いた。


「…すごく、素敵だと思います…ぜひ、私にもお手伝いさせてください」


そう言うや否や、大きな胸に優しく抱き込まれる。


「…ありがとうございます」


囁くような…嬉しそうなそんな彼の言葉を聞きながら、私は、大好きな腕の中で、来年だけではない…将来の未来図を描き始めるのだった。



fin



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