ボル版深夜の真剣文字書き60分一本勝負

□妖しく光る
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「そういえば、もうすぐハロウィンですね」


太陽の光が優しく差し込む、午後の執務室。

雑誌のハロウィン特集のページに手を止めた私の声に、本を読んでいたウィルが静かに顔をあげる。


「ああ…もうそんな時期か」

「フィリップでは、何かしたりするんですか?」


デスクからそっと立ち上がるウィルを目で追いつつ聞くと、ウィルは軽く首を横に振った。


「いや…俺があまりそういうものに興味がないせいか、王室としては参加したことがないな。
国民たちは皆、それぞれ楽しんでいるようだけど」

「そうなんですね…私の母国でもそういう風習はなかったんですけど、最近流行っているみたいで」


ソファに座っていた私の隣に腰を下ろしたウィルに、少し雑誌を寄せる。


「オリエンスではハロウィンと言うより、仮装をして楽しむ人が多いみたいです」

「へぇ…なるほどね」


デスクワークや読書の時にだけかける眼鏡の奥で、長い睫毛が頬に影を落とす。

相も変わらず美しいその横顔を眺めていると、ウィルがふ…と息を漏らした。


「…俺の顔に、何か付いてる?」

「えっ…いえ、別に…」

「…そう?」


笑いを含んだ声に、少し顔が熱くなるのを感じる。


(なんか、上手く振り回されてるなぁ…)


頬を抑えて俯くと、ウィルは再び雑誌に目を落とした。


「こういうの、君に似合いそう」

「え、どれですか?」


ウィルの指が示していたのは、黒と紫のグラデーションが美しい魔女の仮装ドレス。

白い装飾も細かく、ハロウィンらしい衣装だ。


「綺麗ですね…あ、これウィルに似合いそう…」

「どれ?」

「これです」


そう言って私が指したのは、黒いスーツに長いマントの吸血鬼の衣装。

深紅のベストと琥珀のブローチが真っ黒な写真の中で美しく映えていて、より魅力を引き立たせていた。


「いかにもって感じだね」

「でも、きっとウィルなら他の人よりもっと完璧に着こなしちゃいそうです」


さらりと口にしてしまった言葉に、ウィルが一瞬目を見開き…そして優しく微笑む。


「…そんなに言われると、吸血鬼になるのも悪くない気がしてくるよ…それに…」


ゆっくりと言葉を切ったウィルの方へ視線を向けると、太陽の光を背にしたウィルの表情はなんとも妖しげに見えて。


「君みたいな魔女に、イタズラをして過ごす日々は楽しそうだ」


眼鏡の奥でスッと細められる瞳に、私はしばらくの間、目を奪われ動けずにいた…。


fin

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