ボル版深夜の真剣文字書き60分一本勝負

□見えない力
1ページ/1ページ


彼と恋人になってから、私はずっと不思議に思っていることがある。

例えば、それはお城でのパーティーや、その他様々な公務でも。

慣れない私に、彼はいつもさり気なく気を使ってくれるけれど、常に傍にいるという訳にもいかない。

離れた場所に残されたそんな時、いつも私は『それ』を感じる。

真っ直ぐ立てって、誰かに体を支えられるような…そんな感覚。

それに気が付くと、私は不安な気持ちをぐっと抑えて、背筋を伸ばして立っていられる。

この感覚は何なのか…私は、ずっと気になっていた。



*・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・*



「はぁ、疲れた…!」


オリエンスでは鮮やかな紅葉も見られるようになった、秋深まるこの日。

リバティ城にて1日続いたプリンセスレッスンを終えた私は、外の空気を吸うため中庭に来ていた。

夕日が沈みかけた美しい黄昏の空に、私は思わず目を細める。

するとそこへ、誰かの足音が近づいてきて、私の肩がトントンと叩かれた。


「なーにボーッとしてんだよ」

「キースさ……キース…」


振り返った先にあったのは、いつもと同じように自信に満ちたエメラルドグリーンの瞳。

とっさに様呼びしそうになってしまった私に、キースはその整った眉を少し寄せる。


「…お前、またキース様って」

「わぁぁ、気のせいですっ!それより、何かご用ですか?」

「いや、なんとなくお前の顔が見たくなっただけだ」


無理やり話題を変えた私に怪訝な顔をしつつも、キースは優しい声でさらりとそう口にした。


「そ、そうですか…」

「ま、まだ書類が残ってるから、すぐ戻らなきゃなんねーけどな」


思ってもいなかったストレートな言葉に照れていると、キースはそう言って執務室を見上げる。


「そうなんですか…」


呟いた私の声に振り向いたキースは、目をあわせて困ったように微笑んだ。


「おま…なんて顔してんだよ、俺に会えなくて寂しいのは分かるけどな」

「え……わっ」


一瞬だけ…心に浮かんだその想いを指摘された驚きで顔を上げると、大きな暖かい手にくしゃくしゃと雑に頭を撫でられ、乱れた髪で視界が遮られる。


「…ちょっと、何するんですか!」


慌てて髪を整えながら顔を上げると、ニヤリと笑ったキースの顔がぐっと近付き…普段の雰囲気からは想像出来ないような、優しいキスを落とした。


「…!!」

「様づけで呼んだ罰だ、じゃーな」


突然のことに驚く私に、してやったり、というように満足気な笑みを浮かべたキースは、そのまま楽しそうに執務室へと戻っていく。


「…っもぉぉぉ…!!」


一呼吸遅れてしゃがみ込んだその時、あの不思議な感覚に気付いて、私はハッと顔を上げた。

見上げたその先には、窓から私を見下ろすキースの姿が見える。

表情はハッキリ見えないけれど、なんだか…優しい顔をしている気がして。


(…もしかして、これは)


いつも支えてくれる、どこか優しさを含んだ気配は。


(……きっと、あなたのー…)


少し熱を持った頬を、気温の下がった秋の穏やかな風が、ふわりと撫でていく。

その優しさに、私の胸ははなぜか急に、大きく脈打つのだった……。



fin

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ