ボル版深夜の真剣文字書き60分一本勝負

□秘密の写真
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「なあ姫!今日は節分だぞ!」


部屋に来たアランくんは開口一番嬉しそうに言った。

その手には鬼の絵が表紙の絵本が握られている。


「わ、ほんとだ…そういえば今日だね」


アランくんにつられて笑顔で答えると、そうだぞ!と元気な返事が返ってきた。


「みんなで『えほうまき』を食べて豆まきもするんだ!姫もちゃんと鬼は外っていうんだぞ!」

「ふふ、そうだね、皆で大きな声出さなきゃ」


私のその言葉に、アランくんは満足そうに頷く。

そして座っていたソファから立ち上がると、息をつく暇もなくドアへ走り出した。


「兄ちゃんにも言ってくる!じゃあ姫、また後でな!」

「うん、また後で」


元気良く手を振るアランくんは、私の返事を聞くとにっこり笑って部屋を飛び出していく。

ふとソファを見ると、さっきまでアランくんが持っていた絵本が置いたままになっていた。


「あ、忘れて行っちゃってる…」


思わず苦笑しながら絵本を手に取る。

すると、ページの隙間から一枚の写真がはらりと落ちた。


(…なんだろう…?)


拾い上げた写真に写っていたのは、小さな男の子と、赤鬼だった。

ブラウンの髪に、ブラウンの瞳のその子は、近づく鬼に大粒の涙を浮かべている。

アランくんによく似たその男の子にはどこか見覚えがあって。


「これって、もしかして…」


ポツリと呟いたその時、部屋のドアがコンコンとノックされる。

返事をすると、開いた扉の隙間からグレンくんが顔を覗かせた。


「グレンくん!どうしたの?」

「なあ、さっきアランが来なかったか?」

「アランくん?さっき来て、グレンくんを探しに出て行ったけど…」


答えると、グレンくんはすれ違いか…と大きく息を吐き出す。

そして、思い出したように続けた。


「あのさ、アランのやつ、絵本とか持ってなかった?」

「それって、これのこと?」


そういった私の手元を見るなり、グレンくんはハッと表情を変えた。


「そう、それだ、ちょうど探してて…アランのやつ、これだから物失くしてばかりなんだ…」


ため息をつきながら絵本を受け取ったグレンくんだったけれど、少しして不自然に動きを止めた。


「グレンくん?どうかした?」

「あ、いやちょっと…これに入ってるはずのものが…」

「あ、それってもしかして」


そう言って、机に置いていた写真に手を伸ばした私より先に、気付いたグレンくんがパッとそれを奪っていく。


「…グレンくん…」

「…見た、のか…?」

「…うん」


うなだれるグレンくんを見て、私は写真に写っていた男の子の正体を確信した。


「グレンくん、鬼が怖かったんだ」


笑う私に、グレンくんは顔を赤くして背を向ける。

部屋が沈黙に包まれたその時、パタパタと元気な足音が近づいてきて、ドアが勢いよく開いた。


「あ、兄ちゃん!ここにいたのか、探したんだぞ!」

「ああ、俺もだよアラン…」

「に、兄ちゃん…?顔怖いぞ…?」


背を向けたままのグレンくんの顔は見えないけれど、アランくんの表情が引きつっているのを見るとこれは相当だ。

そして次の瞬間、グレンくんはものすごいスピードでアランくんを追いかけ始め、反射的にアランくんも猛スピードで廊下に飛び出した。


「待てアラン!おとなしく捕まれ!!」

「やだ!絶対捕まらないぞ!」


バタバタと賑やかな足音が遠ざかっていくのを、私は苦笑しつつ見守るしかなく…。

数分後、ユウお兄ちゃんにあっけなく捕まった二人は、鬼のようなお説教を食らったのだった…


fin

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