ボル版深夜の真剣文字書き60分一本勝負

□探しもの
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その日、リュークの様子はどこかおかしかった。

執務室にいる時も、廊下を歩いている時も、常に落ち着かず…あたりをキョロキョロと見回す。

城の誰もが不思議に思ったが、仕事はいつも通り行うのならば問題ないだろうと、声をかける者はいなかった。

…そして、昼食の時間。

短い休憩を言い渡されたリュークは、何かを諦めたように肩を落として廊下を歩いていた。

そのせいで、角を曲がろうとしたその時、ちょうど反対から歩いて来ていた人物とぶつかってしまう。


「きゃ…」

「あぶな…っ」


手を伸ばし、なんとか胸に抱き込むと、甘い香りがリュークの鼻をくすぐった。

不思議に思ったその時、腕の中で、ずっと探していたその人が笑う。


「ありがと、リューク…助かっちゃった」

「…よそ見しながら歩くなよ…俺じゃなかったらどうすんだ」


笑顔に一瞬顔が緩むも…堅い声で告げると、彼女はムッと眉を寄せた。


「リュークこそ、私じゃない子でもこうやって助けちゃうの?」

「俺は、お前以外にはこんなことしない」


思わず即答したリュークに、彼女はふふっと笑って小さな袋を差し出す。


「じゃあこれ…リュークにあげる」

「え?」

「バレンタインのチョコレート…いつもありがとうって」

「……うん」


顔を真っ赤にしながら、リュークが袋を受け取る。

そんな様子にまた彼女が笑った、その時。


「…んだよリューク、今日一日様子がおかしいと思ったら、そのせいか」


突然、背後から聞こえた声にリュークはビクリと肩を揺らす。

振り返った先には、どこか呆れたように笑う、主の姿があった。


「キ…キース様…!申し訳ございま…」

「俺もさっき貰ったけど…リュークのは特別…って感じか?」


袋をチラリと見て言うキースに、彼女は幸せそうに頷く。


「はいはい、んじゃ、邪魔者はさっさと退散すっからよ」


呆れたようなため息と共にそう呟き、キースは2人に背を向けた。

しかし、その去り際、釘を刺すのも忘れずに。


「おいリューク、あと5分しかねーからな」

「へっ!?あっ…はい、すぐに参ります!」


遠くなる背中に答えたリュークは、顔だけで彼女に向き直る。


「あの、これサンキューな…夜、部屋行くから…待ってて」


リュークの言葉に、一瞬驚いた彼女だったが、すぐにふわりと微笑み、頷いた。


「…うん、待ってる…頑張ってね」

「おう!…じゃ、また後で!」


軽く手を上げ、サッと身を翻していくリュークを、彼女は自然と笑顔で見送る。

角を曲がって背中が見えなくなると、彼女はぐっと伸びをして、小さく拳を握った。


「よし、私も頑張ろ!」


恋人として過ごすまで、あと数時間。

それまでは彼に負けないように仕事をするべく、彼女もまた、仕事場へと戻っていくのだった。



fin

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