ボル版深夜の真剣文字書き60分一本勝負

□温かな気持ち
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「キュー、おいで〜」

「ニャァア」


その日、プリンセス修行にデザインの仕事にと忙しく追われ一日を終えた私は、癒しを求め、キューと遊んでいた。

私の気持ちを知ってか知らずか、キューは大人しく私の手にすり寄って来てくれる。


「はぁ…癒される…」


ゴロゴロと喉を鳴らしじゃれてくる姿に思わず頬が緩んだ、その時。


「どこにいるかと思えば…こんな所にいたのか」


数時間ぶりに聞く声が私の耳に届いた。


「ジョシュ…!もう今日のお仕事は終わったんですか?」


そう言って私がパッと振り返ると同時に、キューもジョシュの足元へヒラリと飛んでいく。

足にすり寄るキューの頭を撫でながらああ、と頷いた彼は、いつもより何だか疲れているように見えて。

心配になった私はキューをおもちゃで呼びながらジョシュに声をかける。


「あの…お疲れなんじゃ…もう今日はゆっくり休んで……あ、の…?」


私の言葉を最後まで聞くよりも先に、ジョシュはツカツカと私の前まで歩いてきて、おもちゃにじゃれるキューをそっと床へ下ろした。

明らかにいつもと違う様子の彼を見守っていると、その視線はやがて真っ直ぐに私を捉える。


「ジョシュ…?」


もう一度声をかけた私に、ジョシュはゆっくりと口を開き、そして


「お前は…俺よりもキューの方がいいのか」


ポツリと、そう呟いた。


「はい…?」


余りに予想外の言葉に目を瞬かせていると、ジョシュは私の横に腰を下ろし、今度はキューの方をじっと見つめる。


「俺よりもキューの方が…お前を癒せるのか…」


語りかけられているキューはといえば、まるで世界が終わってしまうかのような声色で呟くご主人様を気にする様子もなく。

堪えきれず笑みをこぼすと、ジョシュは怪訝な顔で私の方へと視線を戻した。


「…何がそんなにおかしい」

「ふふ、何でしょうね」


ハッキリとしない答えに首を傾げるジョシュは、けれどすぐに思い直したようにふぅ…と息を吐き、そしてゆっくりと私にもたれかかってきた。


「ジョシュ…」


とことん珍しい姿を見せる彼にそっと声をかけると、アメジスト色の瞳と視線が交わる。

鼓動が大きくなる胸をそっと抑え、ジョシュの言葉を待っていると、少しして、ゆっくりと口を開くのが分かった。


「お前も知っているだろうが、俺はお前を誰にも渡したくないと思っている……それがキューであってもだ」

「ふふ…はい」


複雑そうな表情で告げられるその言葉は、分かっていたつもりでも実際に聞くと嬉しくて、思わず私にも笑みが浮かぶ。


「俺は…きちんとお前を…癒し、支えられているのか…」


どこまでも私のために考えてくれる、その気持ちが嬉しくて。


「そうですね…すごく」


精一杯の気持ちで答えた私に、ジョシュは少し驚いたように目を開き…そしてフッと口元を緩めた。


「…そうか」

「そうですよ」


肩を寄せ合い、自然と繋がれた手から言い表せないほどの気持ちを感じていると…


「ニャァア」


先程までおもちゃにじゃれていたキューがするりと2人の手の間に入ってきて、私達は思わず顔を見合わせる。

やがて、ほぼ同時にふっと頬を緩めて、ゴロゴロと喉を鳴らすキューをわしゃわしゃと撫でた。


「キューも、もちろん大切だぞ」

「そうだよ〜、いつもありがとね」

「ニャ〜?」


2人と1匹で過ごす、穏やかな時間。

頑固で、独占欲の強い王子様との暮らしは、もちろん楽ではないけれど。

大切な人たちと、大切な時を、噛み締めて頑張っていこうと…

私は…そう静かに想いを胸にするのだった。



fin



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