【ヒロアカ】先 輩 依 存 症 。
□▽プール[切島鋭児郎]
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その日は猛暑日だった。
昼休みの後、掃除の時間に切島は学校内のプールを訪れていた。
洗剤やスポンジが入った掃除用のバケツと、片手にデッキブラシを持って、相澤から預かった鍵でプールの入口を開ける。
土足厳禁≠ニ入口に書かれた貼り紙を見つけて、靴と靴下を脱いで裸足になる。
ついでにズボンの裾を捲って、シャツのそでを肩まで上げる。
「…お?」
ジリジリと熱されたアスファルトの上に、誰かがいた。
スポーツタオルを顔にかけ、膝から下をプールに浸けて寝そべっている。
「………、」
寝ているのか、ゆっくりと規則的に胸が上下していた。
掃除用具を入口の脇に置いて、寝ているそいつの傍らにしゃがみ込む。
「おーい」
声を掛けてみるが、反応はない。
「………、」
起きる気配はなかった。
切島の指先は、誘われるようにそいつの顔を隠すタオルに伸びていた。
「(うわ、睫毛なげぇ…)」
タオルの下にあったのは、瞼の閉じられた整った顔立ちだった。
白い肌に筋の通った鼻、長い睫毛と形の良いほんのり赤い唇。
「(キレイな顔だな…)」
ぼうっとそんなことを思う。
すると、ふいにぱちりと瞼が開いた。
「!!」
思わずバッと立ち上がる。
「おわっ」
勢い余って、バランスを崩した。
さっきまで握っていたタオルがするりと手元を抜け、青空に投げ出されるのが視界の端に見えた。
浮遊感に体が包まれ、派手な音と共に水に沈む。
「ブハッ…ゲホッ、ゴホ…っ」
「あはは、大丈夫?」
噎ながらプールサイドに目をやると、そいつは悪戯な笑みを浮かべていた。
「おっ、起きてたのかよ!!」
「いや?」
葵は首を傾げる。
「さっき起きた」
(名前)はあくびを咬み殺しながら、ぐっと伸びをする。
「っはー…びっしょびしょだわ。どうすんだよこれ、アンタのせいだぞ」
「なにそれ、誘ってんの?」
立ち上がりながら、葵は言う。
「…は?」
訳が分からず呆気に取られる切島を余所に、葵は切島に向かってプールサイドを蹴る。
「は?ばっ、おいちょっと待…っ!!」
派手な音がして、再び水に沈んだ。
衝突こそ免れたものの、一歩間違えば大惨事である。
「ばっか、あぶねーだろ!!」
怒鳴る切島に、葵は呑気に笑いながら、髪をかきあげ水面に体を浮かす。
ドクンドクンと鼓動が早いのが自分でも分かる。
「(クソ…あちぃ…)」
言葉にできない熱を、夏のせいにした。
後に相澤にバレて怒られたのは言うまでもない。