小説

□溢れるくらいメリークリスマス
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詩織ちゃん目線

私と夏菜子は、仕事帰りもうすでに日が落ちた街を走る電車に揺られている
クリスマスイブだし、イルミネーション見ようかってなって
赤いニットを二人で着てお揃いのネックレスを付けて

「ねーぇ詩織、やっぱりちょっとなんか…はずかしい。」
「いいじゃんよ〜!こんな時しかお揃いしないでしょ、」
「でも、さぁ…あやたかとかはよくやってるけど、私は…」

先日、色違いでお揃いのニットを着てライブに行ったら思いのほか気に入ったらしく、今度は夏菜子から言ってきたかと思えば
電車の中でそんなことを言い出すから、寂しさに目を伏せる


「…やっぱ、やだだった、?」

ちょっとの事で不安になっちゃうんだ、今日だって
夏菜子から誘ってくれたくせに、ちょっかい出したらするりとかわされるし
いつもの事なんだけどさ、こんな日だからこそそういうのがすごく気になる

「…やじゃないよ、ただ。ちょっとあんま、こういうのなれてない、だけ……」

若干上目づかいで可愛くて、仕方ないなぁって思っちゃうんだよなぁ
小声で言うのも夏菜子らしいというか
頭を撫でて気にしてないよ、と言ったら少し不安そうな笑顔で私を見つめてきた

「しおのこと好きだから、ちゃんと」

惚れた私の負け、ってことかな
珍しく腕をぎゅっと抱かれて高揚した気持ちがドクドク言って
降りる駅まで心臓が爆発しないか夏菜子が瞼を閉じても感触を握りしめて



「ついたね、」
「、あ…おりよっか」
「うん」

手を繋いでも嫌がらなかったので、そのまま歩くことにした

コートを羽織っても寒さがじわじわと体温を奪っていく
もうすっかり暗くなった空が、心なしか明るく感じたのは
イルミネーションで飾り建てられた建物や植物のせいかな

「きらきらだねぇ、」
「うん…、綺麗」

光のトンネルには赤と黄、ピンクに緑に紫
ももクロカラーがそろってて二人して笑った

トンネルを抜け、少し控えめになった煌めきだけど
目を瞑っても瞼の裏に浮かぶ




「あー、もう真っ暗だねぇ」
「ね、そろそろ帰る?」
「んー…」

夏菜子は言葉を濁し、足を止める
それに合わせて止まれば、夏菜子は握った手を少し強く握って

「まだ、帰りたくない、な…」

振り向けば耳が赤くて
それは寒さのせいか、触れた頬は熱を持っていた


「じゃぁ、もう少しいようか」

顔を上げて嬉しそうな顔をする夏菜子が愛おし過ぎて
ほっぺたをつんつんしたらいつものツンデレになって腕を引かれた

「だったら…寒いし、ちょっとカフェでも入らない?」
「だね、コーヒー飲みたい」
「へぇ、オトナみたい」
「まぁ、オトナですから?」
「ふふ、そーだねぇ」

時間が遅いのでカフェにお客さんはいなかった
香ばしい薫りにチョコレートのような甘い香り
カフェラテ二つ、チョコケーキとモンブラン
トレーに乗せてそこだけ個室っぽくなったボックス席に向かう

「あ、ありがと詩織」
「いえいえ、ケーキこれでよかったよね?」
「うん、食べたかった!」

二人同時に手を合わせる
ブラック飲めるようになったんだよと言ってキメ顔をしていたけど、夜というのもあって二人とも甘いのにしてしまった
ミルクの香りが甘い

「詩織、私もモンブラン少し食べたいなぁ…」
「ん?じゃぁ……あーん、」
「う、……あーんっ」
「…どう?」
「、おいひぃ…っ」

頬を押える夏菜子に私もあーんってする
そしたらお皿を差し出してきた

「…ん、」
「…あーんしてよ」
「っえ、……っあーん!」
「んっ、ぐ……夏菜子勢いつけすぎ、」
「ご、ごめん」

なんて、照れ隠し
本当は久しぶりだから
嬉しくて

「美味しいね、」

ちゃんと微笑むことができているかな
やばい、顔熱い



「しお、大丈夫?」

はっとしてみれば首を傾げる夏菜子
何でもない、と言って頭を撫でた


「よし、そろそろ出ようか」

スマホをみれば、もうすぐ日付を超えるところで
お店を出たらつながれた手が駅の方に引かれる

「ねぇしお、知ってる?」
「ん?」
「…ちょっと寄り道、」

そういって駅を曲がれば、どんどん人気はなくなっていく
どうしたんだろうと思いつつも少し歩けば


そこには


「へへ、綺麗でしょ」

大きなクリスマスツリーに柔らかく光るイルミネーション
綺麗、という一言で表すにはもったいなく感じた

「ねぇしお、あのね…」

顔を向けた瞬間、チョコレートの味が重なった
さっきと同じ、いや少し違う
私が一番好きな味

「、……かな、」
「えへへ、…外国では、ヤドギリ?っていう木の下でするんだって、」

かわいい…いつの間にこんなことするようになったの
してやられたとおもい、ほっぺをつぶした
これも照れ隠しだ、多分

じゃぁ私も


「…これ、プレゼント」
「、…ありがと、…え、開けてもいい?」
「もちろん、」

がんばったんだよ、私も

夏菜子の手にはヘアゴムが二つ
ただのヘアゴムじゃない
ガラス細工でお花とバレッタのような形のを体験で作らせていただいたの
難しくて、本当は三つあげたかったんだけど、一つ失敗しちゃって

「かわいい……ねぇ、これって、」
「うん、私が作ったんだよ、」
「っすごい!…なんで二つ?」
「あ、えっと…それは、」

言葉を濁して目をそらした
だけどとりあえず、かっこよくしたくて、お花の方のヘアゴムを後ろの髪に結んであげる

あー、心臓の音聞こえてるかなぁ
かなり近くてドキドキしていたら、横にあった腕は腰のあたりをきつく固定する

「っ…かなちゃん、?」
「…ちょっとこのまま、」
「…ん、」

ゴムを結び、私もかなちゃんの背中を寄せる
肩がぴくってなって、かわいい
そのうち飽きたのかその手を放して、私も少し離れた

「…ありがと、ずっっと大事にする。」
「気に入ってくれたら、いいな」
「しおがくれたものは、なんだって大事だよ…しおの事も。」

うひょって笑う笑顔が眩しい
嬉しすぎて、好きすぎて、多分私は変な笑顔だ
そんな私をよそにかなちゃんもかばんを探り出した

「ほんとは、先に渡したかったんだけど…」

赤いプレゼント袋
私が先にプレゼントを渡したのが予想外だったのか、少し戸惑いながらそれを私に手渡す

「っ…ありがと、」
「うん、…まったく、しおにはかなわないや」

そんなことないよ
だってきっと、私のほうがどきどきしちゃってるし
どきどきさせられちゃってるし

裏に貼られたシールを剥がし、中身を取り出す


「…わ、」

明るい茶色の手袋
裏がもっこもこで、おもてはニットみたいになってて
私のマークのヒヨコが左右両方の手首あたりに刺繍で

「やー、久しぶりだからあんまり上手じゃないけど…」

まだ何か話したそうに、えくぼを浮かべていたけど
それを黙って見れるほど、決して冷静じゃない
強く、強く細い体を抱きしめて、ありがとうって、何回も言った
なんだか涙が溢れそうで、きらきらのイルミネーションがこれでもかというくらい、眩しくなった

「、しおっ…おちついて、ね、?」
「っだって…、かなちゃんが、っ……ばかぁ……」


背中をさすられ、頭を撫でられるのが懐かしさを思い出させて
落ち着くとか、無理だよもう…

「…しお、っ」
「っん………かな、…っ」

引きはがされて、だけどいつもみたいに虚しくなくて
それはたぶん、それもたぶん、かなちゃんのせい



真っ白く輝くものが、空に浮かんだ

「、っつめたぁ…」
「……雪、?ねぇ、雪だよ!」

激しく揺れるポニーテールにいつも通りの感覚が戻る
そしてまた、手を引かれる

「っちょ、」
「ほら、早く帰らないと、洗濯物濡れちゃう!」

こんな日に限って、洗濯物を干してきてしまうなんて
ついてないなぁと思う反面、これ以上は心臓が持たないだろうから、助かったと思う反面
助かった、いややっぱりちょっと残念だなぁ

今日はいろいろ、仕掛けられっぱなしだったなぁ
帰ったらお風呂上がりの下着を隠すぐらいのイタズラをしてやろう
そうやって、苦さを混ぜないと、私の心臓が持たないとわかったから

ツンデレは、いいんだなと
改めて感じさせられた
いつも通り、特別な日ならちょっと甘くするくらいが
甘い甘い毎日にはふさわしい


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