小説

□真冬の色
1ページ/1ページ

れにちゃん目線

午前中の撮影を終え、私と玉さんはケータリングを取りながらゆっくりしていた
私服に着替え、おいてあったハーブティーを飲んだ後、夏菜子ちゃん、あーちゃん、ももかは仕事または帰路についた
私たちだけ、楽屋でじゃれ合ったり、お互いの事をしたり


「ねーぇ、高さん」
「なぁに玉さん、」
「今からお出かけしようよ、」
「お〜いいねぇ、でーとでーと!」
「えへへ、久しぶりだねー」

ソファーの隣に座ってきた玉さんは少し子供っぽく笑い、重なる右手を握りかえした

「どこにいくの?」
「んー海までドライブとかする?車借りてさ、」
「あ〜いいね!私玉さんの助手席のったことないよ、」

近くでレンタカーを借り、コンビニで飲み物とかご飯とかお菓子とかいろいろ買って
浜辺まで行ったら車の中でピクニックみたいにしよう、ということになった

「はぁ…玉さんがほんとに運転してるよ…」
「えへへ、なんかちょっと緊張する…」
「安全運転たのむよ?」
「わかってるよ〜!」

私と会話しながら、走りは安定していて
さすが器用だな、と感心しながら少し黙って窓の外を眺める

流れる窓の外の景色がビルやカラフルなのから民家などシンプルに移り変わって
コンビニで買った程よい温度になったカフェラテを飲みながら目を瞑る

「っ、苦ぁ…」
「ん、…それ、私の!」
「えっまじか!こんなの飲めるの、すごいや玉さん…」
「えへへ、大人ですから、」

隣に置かれたのを手に取り、口を付ける
苦いものを飲んだ後だから、不思議と甘ったるく感じた
こうやって、大人になっていくんだなぁ








「着いたー!」
「…わ、……眩しっ」
「ちょっと太陽の反射がすごいね、でも綺麗」
「ほんと、」

ドアを開けて、少し外に出てみる
浜辺が少し下にあって、そこからどこまでも続いて空とぶつかって
きらきらと波が揺蕩いて見えた

私はドアを開けてガラス越しではない景色を見る
空気は冷たく、強く体に刺さるような

「っっ、さっぶ!」
「ねーやばい、めっちゃ寒い!けどめっちゃきれい、」
「ロケとかでありそうだよね、」
「仕事の話…マジメだなぁ高さんは、」

茶化すように笑う玉さんを見て衝動的に砂浜に走りだせば、同じように追いかけて来る
なんだかぶらりみたいだなと昔から変わらないなと
頬が緩んだ、もっと笑顔になってるきっと

「そろそろ車に戻ろ、マジで寒い」
「だねぇ、よぉし走れ〜!」

走って車まで行った後、いつもの癖で後部座席の方に乗ってしまった
それを見て、玉さんもまた後部座席の方に入ってきた

「はぁ〜、楽しい…」
「高さんはしゃぎ過ぎだよ〜!」
「だって、玉さんもはしゃいでたじゃん!」
「まぁそりゃ、…ね」
「でしょー?」

子供っぽいやり取りだけど、笑顔はどこか大人っぽくて
カフェラテを飲みながら息をつく
詩織が肩に頭を預けてきたので、私もそれによりかかる

「…高さん?」
「やっぱみんなさ、大人になったよねぇ」
「え、そう?」
「うん」

詩織は運転免許を取って、あーちゃんも取って、ももかは大学を卒業して好きなことに全力で取り組んで、夏菜子ちゃんは色々な世界に羽ばたいて

私は、いったい何をしてきたかな
何を残してこれたかな



「れにちゃん、また何か考え込んでるでしょ」
「、…またって?」
「いつもそうじゃん。詩織にも話してほしいよ」

肩にかかる優しさと重み
その頭に私も身を預け、ぼんやりと海の向こうの空を見た


「たとえば、どんなこと?」
「れにちゃんがどんな色の空を見てるかとか、どんな形に見えてるのかとか、」
「そんなの、みんな同じじゃない?」
「んーそうかなぁ…空の色とか青だけど、それってどこで見るかとか誰と見るかとか、どんな気持ちで見るかとかで
違うと思うんだよなぁ」

分かるような、分からないような
詩織の顔を見れば、まっすぐな瞳とぶつかる
カフェラテを置いて頭を撫でたら柔らかく唇が重なった
少しだけ。だけど、火照った顔に寂しげな瞳がちょっと犬みたいで放っておけなくて

曖昧な感情で私は詩織を抱きしめた
確かなのは、詩織を抱きしめるのが大切な感情であるということ


「ね、私って大人になれてるかなぁ」
「…え?」
「なんかね、ちょっと考えちゃって。それだけ」

なんか少し照れくさくなって腕を放すと、今度は詩織が私の腕を引き寄せた

「大人かはわかんないけど、…れにちゃんの笑顔には私いつも助けられてるよ」
「…ほんと?」
「うん。たぶんメンバーもスタッフさんもモノノフさんも
さっきだって、真面目なところあるし。そういうのが好きだなぁ」
「…やだなぁ、照れるじゃんか、」
「れにちゃんが言ってって言ったんでしょー?」

唇をとがらせて目をそらした詩織のほっぺをつつけば、また笑顔
それでまた、私も笑顔になる
笑顔の連鎖っていいよね
私だって、詩織の笑顔に助けられてるよ
そう言おうとしたけど、やめた。なんか恥ずかしくなって

「まぁ、元気ないときはさ、一緒にお菓子でも食べてやってこうよ」
「や、別に元気だけど」
「うん、知ってる」

少しそっけない返事をしてポッキーの箱を開けた
袋の口を開けて一本取りだして口に入れるのを見て、私もアルフォートの箱を開けた

「「あーん」」

ほぼ同時にポッキーとあるフォートを差し出す私たちはおかしくなって、同時にあーんってしてまた笑顔になった
ポッキーゲームしたりきのこの山、たけのこの里どちらがより魅力的かという話もした

気が付けば海の向こうに日が落ちて行くところで、水面に映る眩しさと相まって優しく車内を照らしていて
隣で静かに目をつむっている詩織のほっぺはオレンジ色だった





「あー…たのしかった!」
「うん!なんかあっという間だった気がする」
「ね、またお出かけしようね」

約束、と言って私の家の前に止まった後に小指を立てて差し出してきた
その小指に私も小指を絡めて約束といって唇を重ねた

「…なんか、いつもより甘い」
「へへ、お菓子いろいろ食べたもんね」

えくぼにちょんっと触れて車を降りれば、窓が開いてばーかって聞こえて
手を振ったら振返してくれた
あたたかい気持ちで冷えた手を温めようとポケットに手を突っ込んだら
くしゃっと、何かが触れた

「あ、……」

キットカットが一つ入ってた
やられたー、こういう粋なことするやつになったのか
裏を見て顔のほてりを無視して私もばかって呟いた


『またれにちゃんの可愛い寝顔が見たいな(笑)』


次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ