小説

□階段の傾きに
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詩織ちゃん目線


あの子は生まれつき、体が弱かった
私が彼女と知り合ったのは高校1年生になってからだけど、教室の後ろの窓際の端っこの席でいつも空を見つめていて
そんなあの子を、私は友達と話している時も授業中もなんとなく気に留めていた


「あ、今回隣だね有安さん。よろしく!」
「…よろしくね、」

少し弱い笑顔、そんな笑顔がいつかもっと輝くようにって心の中で少し思ってて
それまでは少し挨拶したりするくらいだったけど、授業中にメモ交換して少しずつ私たちは仲良くなった
登下校は別に帰る人がお互いにいて、休み時間だってお話ししないのに
不思議
この前交換したばかりのLINEも、気付けば遡りきれないくらいお話ししてて

「おはよう、玉井さん」
「おはよ、有安さん」

席替えをしても、ラインをする頻度は増える一方だった




「詩織、最近有安さんと仲いいよねぇ」
「ん?うん。かわいいよ、」
「話かみ合ってない、ちゃんと見えてるの?」
「っ、…今はLINEしてたし、それは聞いてるかでしょ?」
「ごめんごめん、」
「まったく夏菜子は…」

いつも一緒に登下校するのは夏菜子
家が近くて小学校からの腐れ縁があって
明るくて優しくて少し繊細な性格を持っていて、私が一番一緒にいる親友
気が置けないやつで、いつも心配してくれる

「…私にも、頼ってよね」
「うん。ありがと」

右を向いて夏菜子の笑顔に笑顔を返した

私には幸福なことにいつも助けてもらえる友達がいて
有安さんはお母さんや先生がよく一緒にいて
こう聞いたら、全然つながりなんてないよね



寒くなった頃、ももかと呼ぶようになって
少し暖かくなってきた頃、お互いにお友達が増えて
高校2年生になって、クラスが離れてしまった

だけど、会ったときにお話したり、ラインをしたりは全然変わらなかった
ただ、私の隣にいなくなっただけ
それだけ、そう思っていた


「詩織、」
「なぁに夏菜子」
「…最近つまんなそう」
「そうかなぁ」
「そうだよ、なんかあった?」

心配そうに私の顔を覗き込む夏菜子
左に顔をそむけて目をそらしても、夏菜子にはわかるようで

正直に話した
ももかと毎日LINEをするし、お話もできるけど会えないのが心配であるという気持ちを
私の近くにいてくれないのが、どこか苦しいという事を

「それは、それだけ詩織が有安さんを大事に思ってるからだよ」
「大事に…」
「うん。私は詩織が大事、それとおんなじ。」
「…てれるじゃんか、ばか」
「へへ、いいじゃん。親友だし」

太陽みたいに眩しく笑って、目を瞑ってもわかる暖かさがあって
ありがとうって、小さくつぶやいた

「その気持ち、大切にしようね」
「…うん!」








ある休日、私は勇気を出して電話をしてみた
LINEはするけど、やっぱり声を聞いてお話しするのは楽しいけど少しドキドキする

「ももか、あのさ」
「ん、なぁに?」
「…今から、会えない?」
「え、…今から?」

少し都合が悪そうな声がする
なにいきなり言ってるんだろ、そんなの無理だよ、無理だよって分かってるのにね

「っ…ごめんなさい、今からじゃ無理だよね、気にしないで!」
「…んーん、平気だよ。今どこ?」
「今、…公園の近くかなぁ」
「わかった。ちょっとだけ、会いに行くね」
「あ、…あっありがとう!」
「いえいえ、私も会いたかったからさ…じゃぁね!」
「うん!」

同じように、考えてくれてたのかなぁ
口元が緩んで、足がそわそわして今すぐ走り出したい衝動を抑えて


しばらくまったけど、ももかはこなくて
高ぶった気持ちのままベンチに座っていたら、携帯が揺れた

「…もしもしももか、おそ」
「…玉井詩織さん、ですか?」

聞いたことのない声
そして、どうして私の名前を

「…はい、えっと…」
「伝達を頼まれました、…ももかさん、待ち合わせに行けないと、言ってまして…」
「、ももかになにか、あったんですか?」
「…ももかさん、病室を出てすぐ、……意識を失って、」
「っ、え…」


ももかが、














病院についたころにはもう遅かった
さっき聞こえた番号の病室は真っ白で、人の影もなかった


一枚の手紙が置かれたままのベット
まだ、ほんのちょっとだけ体温がある



『詩織ちゃんへ
いつも 病弱で、友達が少ないような私に優しくしてくれてありがとう。
優しくて明るい振る舞いができて、ムードメーカー的な存在でお友達がたくさんいる詩織ちゃんが、私なんかと仲良くしてくれて、初めはどうしてなんだろうって思ってたけど、すごく嬉しかったんだ。
クラスがはなれちゃっても、LINEしてくれたり話しかけてくれたり、私は詩織ちゃんにとても救われてました。
本当に、詩織ちゃんのようなお友達を持てて、私はすごく幸せ者です。ありがとう、大好きだよ』


どうして、って

私は、優しくも明るくもない
幸せなのは私の方だ。あんなに輝いていた日々は、もう来ないかもしれない
そう思うほどに、ももかは眩しかった

だから、ももかは


私なんか、じゃないのに






何にも考えないようにすれば、涙がこぼれてくる
泣いちゃいけない時に、一人の時は悲しくても何も出ない
好きが零れ落ちたところで、消えることも薄まることもなくて



空を見ているももかが好き
写真を撮って笑うももかが好き
私に色々なものを見せてくれる無邪気な顔が好き
真面目でズルができない性格が好き
難しい事にも全力で取り組むその小柄で大きい姿が好き

ももかを彩るそのすべてが、大好き


声にならない感情が、絡まって縺れあって
ぽいってできなくて、喉の奥で詰まって









ねぇもし、もしあなたがまた笑ってくれたら
もしまだあなたが私の隣にいてくれたら
もっとずっと大切に


もっとずっとなんて

そうしてこなかったから
こうなっただけの事なのに


そう、諦め悪く想ってしまうんだ








あ、そうそう
私がどうしてももかを気にかけていたかというのは



私も片目を失明しているから、かもしれない







いきなりこぼれそうになった涙をこらえようとしたら、歩き方がへんになって転んでしまった
たまたま左にいた友達が手を差し伸べてくれる

「詩織ちゃん大丈夫?手伝おうか?」

そんな言葉を、あなたにもかけてあげたかった

私はいつも、あなたに救われてばかりで


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