忍たま乱太郎

□何から話そうか 前編
1ページ/2ページ


 ドタバタと廊下を歩き向かった部屋横の木札に書かれているのは、土井(どい)山田(やまだ)の文字。
 勢いよく戸を開けば、一人の人物が採点の手を止めこちらを向く。



「土井先生、何故昨日は来てくださらなかったんですか」

「それならお断りしたはずですが」



 昨日は土井先生とデートの約束をしていたのに、当の本人は時間になっても現れなかった。
 まだ恋仲ではないけど、デート前日に「明日デートをしましょう。学園を出て最初に見える一本の木の場所で」と伝えていたというのに来ないなんてと怒っていれば「それは風明先生が一方的に言われた言葉で、私は了承してません」と言われムッとする。

 確かにあの時の私は伝える事に必死で返事は聞いていなかったけど、それでも待っている事を考えて来るべきじゃない。
 男が女を待たせるなんてそれでも教師かとブーブー言うけど「兎に角、何度誘っていただいても私の答えは変わりませんので」と冷たい返事が返され、土井先生は再び机に向き直ると採点の続きに戻ってしまう。

 その背に「私、絶対に諦めませんから」とだけ言い残し、自室に戻った私の口からは深い溜息が溢れた。
 これだけアピールをしているというのに、土井先生は私の想いに気づかないどころか本気にさえしていない。
 そんな相手にどうしたら振り向いてもらえるのか悩んでいると「そんなの簡単っすよ」と言う声が聞こえ戸が開く。
 現れたのは、一年は組の摂津(せっつ)の きり丸。
 一体何時からいたのか、どうやら私の悩みは口に出ていたらしく、戸越に聞かれていたみたい。



「簡単って、何か方法があるの?」



 私の問に、ニコニコと笑みを浮かべながら差し出される両手。
 タダなんて言葉は、きり丸くんに存在しない。
 掌にお金を乗せれば「毎度ありー」と元気のいい声を上げ耳打ちをされる。
 内容は全く理解できないものであり、本当にそれで土井先生を振り向かせることが出来るのか疑いの視線を向ける。



「そんな疑いの目なんてしなくて大丈夫っすよ」



 どこからその自信が来るのかはわからないけど、このままアピールを続けたところで同じ事の繰り返しになるのは目に見えている今、疑いたくなるような内容でも、きり丸くんの案にかけるしかないと思った私はその日から、土井先生としばらく話さないようにするという行動をとった。

 本当にこんなことをするだけでいいのかと思いながら廊下を歩いていると、前から六年生の善法寺(ぜんぽうじ) 伊作(いさく)、一年生の猪名寺(いなでら) 乱太郎(らんたろう)が歩いてくる。
 伊作くんには包帯が巻かれており何があったのか尋ねれば、伊作くんの不運が招いた結果らしく、心配した乱太郎くんが部屋まで送っていく途中らしい。



「乱太郎くん、今日は医務室の当番だよね。伊作くんは私が部屋まで送るから、乱太郎くんは戻って大丈夫だよ」

「ありがとうございます。じゃあ、よろしくお願いします」



 乱太郎くんはペコリと頭を下げると医務室へと戻っていき、廊下には私と伊作くんの二人が残された。
 申し訳なさそうにする伊作くんに肩を貸そうとするけど、何故か掴まろうとしないことにどうかしたのか尋ねれば、伊作くんの頬がほんのり色づき「な、なんでもありません」と少し躊躇いながらも肩に腕を回してくれた。

 他愛ない会話をしながら伊作くんの部屋の前で足を止め「不運もここまでくると大変だと思うけど、お大事にね」と言い残し別れたあとは、自室へと向かう。










 その途中、半助はどうしているのかなとふと思う。
 きり丸に言われた通りなるべく話さないようにし、会話とと言えば仕事についての内容だけ。



「きっと、土井先生は何とも思ってないんだろうな」



 こんなにも考え、こんなにも半助のことで悩み話せない今が寂しくて仕方がないというのに、半助は何も変わらず毎日を過ごしている。
 こんなことをしても意味はなく、ただ自分がどれだけ半助を好きなのか思い知らされるだけ。



「何で、好きになっちゃったんだろ……」

「恋ってそんなもんじゃないですか」



 つい口に出てしまった言葉に返事を返したのは伝蔵。



「恋は苦しくて悲しくて辛い。ですが、恋をしているからこそ、楽しいことや得られたものだってあったんじゃないですか?」

「恋をしているからこそ……」



 半助と出会う前、音根はくの一として活躍していた。
 どんな任務も一人でこなし、失敗は一度もない。
 そんな自分を過信していたのがよくなかったのだろう。

 任務中、音根は怪我を負い、動ける状態ではなくなってしまった。
 このままでは敵の忍から逃げ切ることはできないと思っていたとき、音根の体は宙へと浮く。
 敵の忍びかと思い暴れると、聞き覚えのある声音が聞こえ顔を上げれば、月の明かりがその人物の姿を映し出した。



次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ