忍たま乱太郎

□何から話そうか 後編
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最近、音根から出掛けないかという誘いをされることがなくなった。

この前は、約束の時間に来なかったと怒っていたというのに、誘いどころか仕事の話しかしていない。

必要最低限の会話はしているため仕事に支障はないものの、半助の表情は曇っていた。



「最近元気がないみたいだが、どうかしたのか?」

「いえ、なんでもないんです……」

「何でもないって顔には見えないけどなぁ。風明先生が最近来ないのと関係があったりするんじゃないですか?」



図星を突かれた半助は、あからさまに表情に出るため、伝蔵はやっぱりと納得する。



「そんなに気になるなら、自分から声をかけたらどうです?」

「そうなんですが……」



音根が憧れているのはあの頃の自分であり、抜け忍となり忍術学園で教師をしている今の自分ではないのだと思うと、自然と半助は音根を避けてしまっていた。

そんな自分の冷たい態度に失望し、声をかけなくなったに違いない。

一人黙ったまま考え始めてしまう半助に、悩むくらいなら直接聞いてきなさいと伝蔵の言葉が背中を押す。


周りから見れば、音根と半助の気持ちくらいわかってしまうため、なかなか進まない関係が歯痒くもあるのだろう。


伝蔵の言葉でようやく音根の元へ行く気になった半助は、音根の部屋へと向かう。

だが、部屋には誰もおらず、何処に行ったのだろうかと探していると、六年の長屋に音根の姿を見つけた。



「着いたよ。不運もここまでくると大変だと思うけど、お大事にね」

「はい、ありがとうございました」



音根を見つけたものの、何故か音根の横には六年の善法寺 伊作の姿がある。

その上、二人の距離は非常に近く、つい半助は隠れてしまう。



「なんで風明先生と六年は組の善法寺 伊作が一緒に……」



よく見ると、伊作はあちこちに包帯が巻かれており、足にも巻かれているのを見ると、怪我をして音根に部屋まで送ってもらったのだろうと予測がつく。

ほっと安心する自分に、何を安心しているんだと頭を振る。

そんなことをしている間に音根の姿は消えてしまい、半助は慌てて音根の後を追う。


ようやく音根の背が見え今度こそ声をかけようとするが、そこに伝蔵がやって来たため半助はつい隠れてしまった。

一度隠れてしまうと出ていきにくくなり、二人の様子を隠れて窺う。



「恋ってそんなもんじゃないですか」



恋という伝蔵の言葉が半助にも聞こえ、一体何の話をしているのかと気になってしまう。



「恋は苦しくて悲しくて辛い。ですが、恋をしているからこそ、楽しいことや得られたものだってあったんじゃないですか?」

「恋をしているからこそ……」



二人の会話を聞き、音根が恋をしていることを知ると、半助の胸は手でぐっと握られているような痛みを感じた。

そして、半助が恋と聞いて思い出したのは、音根と出会ったあの任務でのことだ。

その任務で組まされることになった相手は一流のくの一であり、今までの任務は一人で全てこなしてきたという凄腕の人物だった。

一体どんな人なのだろうかと思っていた半助だが、いざ会ってみると、挨拶をしても返事もなく、ペアを組んでいるというのに一人で動いたりと、全く半助の事など眼中にないようだ。



「どこ行ったんだ……?」



一人で行動し何処かへと行ってしまった音根を探していると、暗闇の中音根を見つけた。

だが、様子が可笑しいことに気づきよく見ると、足を怪我しており、動けるような状態でないことがわかる。

半助はそっと音根に近づくと、片手は背に、もう片方の手は膝の後ろに通し、音根を姫抱きにする。

驚いた音根が暴れだすが、雲で隠れていた月が顔を出したのと同時に、音根の瞳が半助を映しようやく暴れるのを止めた。



「あ、あなたは……!」

「静かにしていてくださいね。まだ近くに敵の忍びがいますから」



今日の任務は、密書を城に届けさせないようにするというものだったのだが、その密書は今音根の手に握られていることに気づいていた半助は、ここに長居する必要はないと、音根を抱いたままその場を離れる。

報告も済ませた後は帰るだけなのだが、その前に、音根の足の手当てをする。

今回だけのパートナーだとしても、怪我をした女をほおっておくことはできなかったのだ。



「これでよし!風明さん、顔が赤いですけどどうかされましたか?」

「ッ!!な、何でもないです!!……あの、ありがとうございました」



最初は挨拶もしなかったというのに、まさか礼を言われるとは思わず、口許がふっと緩む。

何故か顔は伏せたままの音根だったが、最初の時とは違い、纏う空気は柔らかく感じる。



「同じ忍でペアを組んだ仲間なんですから気にしないでください。では、私はこれで失礼します。またお会いすることがあったら、その時はよろしくお願いします」



そしてその日の任務を終えて数日後、半助は抜け忍となり、忍術学園の教師となった。


半助の表情が曇った時、音根の表情は明るくなっていた。

音根は伝蔵に礼を伝えると、そのまま行ってしまうため、半助も後を追う。

どうやら向かう方向からして自室に戻ろうとしているようだが、またも前から歩いてきた誰かに音根は声をかけられ足が止まる。



「あれは、五年い組の久々知 兵助#か?」



兵助の手には何故か豆腐の入った器が持たれており、何故かその器を音根へと差し出す。



「へ?」

「これ、今作ったばかりの豆腐なんです。よければ食べてください」



音根は困惑した表情を浮かべたが、ありがとうとお礼を伝え器を受け取った。



「もしかして、風明先生が好きな相手は久々知 兵助……」



兵助と別れて再び歩きだす音根の後を、半助はモヤモヤとした気持ちを抱えながら追う。

一体自分は何故こんなことをしているんだとため息が出そうになる。

部屋まであと少しの距離となったとき、次に音根に声をかけたのは五年ろ組の不破(ふわ) 雷蔵(らいぞう)だ。



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