忍たま乱太郎

□得られる者と失う者 後編
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最近、雷蔵は女の子から声をかけられることが多くなっていた。

だがそれは、雷蔵がモテているというわけではなく、その子達は口を揃えて言うのだ。



「ねぇ、雷蔵くん。三郎くんが風明さんと付き合ってるって本当?」



その質問に、雷蔵は苦笑いを浮かべながらどうだろうねと返すだけで、それ以上の言葉を返すことはない。

正直、最近三郎が音根と一緒にいる姿は雷蔵も見かけており知っていたため、否定ができないのだ。

かといって付き合っているとも断言ができず、この質問には曖昧に返すしかない。



「三郎、ちょっと来て」

「はいはい」



そして今日も、音根は三郎と教室を出ていってしまう。

そんな二人の背を見つめ、雷蔵の口から出るのは溜め息だけだった。


それから翌日。
この日雷蔵は、別の組で仲のいい尾浜(おはま) 勘右衛門(かんえもん)久々知(くくち) 兵助(へいすけ)の3人で遊ぶ約束をしていた。

夕方には帰ることを三郎に伝え家を出たが、家を出る際に、三郎の機嫌が良かったことが気になってしまう。



「おーい」

「……何?」



目の前でヒラヒラと手が振られ、ようやくその声に気づいた雷蔵はその人物に視線を向けた。

今目の前に座るのは、勘右衛門と兵助であり、三人がいる場所はファミレスだ。

ドリンクを飲みながらぼーっと考えていた雷蔵に声をかける勘右衛門だが、なかなか雷蔵が気づかなかったため、目の前で手をヒラヒラと振って気づかせたようだ。



「雷蔵、さっきから何考えてるんだ?」

「なんか今日は、心ここにあらずって感じだよな」

「そう、かな?」



自覚のない雷蔵に、二人は大きく頷くと、もし悩みがあるなら相談しろよと声をかけてくれる。

そんな二人に、自分のこの気持ちを話すべきなのか話さないべきなのか、雷蔵は悩み始めてしまう。



「出たな」

「雷蔵の悩み癖」



うーん、うーんと唸りながらも決めた雷蔵は、二人に相談することにした。


最近、三郎と音根が一緒にいる姿を目にすることが増え、仲が良いのは友達として嬉しいことのはずなのに、何故か気になってしまうこと。

女の子達から、二人が付き合っているのかと聞かれると胸が痛むこと。

そんなモヤモヤとした気持ちを二人に話すと、勘右衛門は何やらその答えがわかったように納得し、兵助は、顎に手をあて考えような仕草をしたあと口を開いた。



「それって、嫉妬なんじゃないか?」

「俺も兵助と同じ意見だ」

「嫉妬?」



首を傾げる雷蔵に、勘右衛門と兵助は分かりやすいように説明する。

音根と三郎が一緒にいると嫌だなと思う。
音根と三郎が付き合ってるんじゃないかと考えると、胸が苦しくなる。



「その全てが意味するのが」

「嫉妬だ」

「そっか!そうだったんだ!!二人ともありがとう。僕は、三郎を取られたと思って嫉妬してたんだね」



思わぬ方向に、二人の方が今度は首を傾げることになる。

勿論ないとは言えないが、雷蔵は気づいていないのだろう。
雷蔵の話の中でいつも出てきているのが音根であることに。



「勘右衛門、これでいいのかな?」

「まぁ、そのうち本人が気づくさ」



それから時間が経ち日も暮れ始めた頃、少し早いが二人と別れた雷蔵は家へと帰る。



「二人に相談してよかったなぁ」



嫉妬と言われたとき、最初はピンと来なかったのだが、二人に言われて納得ができた。

だが、自分が三郎を取られたと嫉妬している。
という部分だけは、何故か納得がいかなかった。



「ただいま〜って、あれ?お客さん?」



少しのモヤを残しながら玄関の戸を開けると、何故かそこには、三郎の靴ともう一足女物の靴がある。

三郎の友達でも来ているのだろうかとリビングの戸を開けると、一瞬目の前のことに時が止まったような感覚を感じたが、雷蔵は何時もと同じ様に声をかけた。



「音根ちゃん、来てたんだね」

「う、うん。お邪魔してます」



顔を伏せてしまった音根は、きっと三郎と二人のところを見られたのが恥ずかしいのだろうと思うと、雷蔵の胸は痛みを感じた。



「そろそろ暗くなるし、家まで送ってくよ」



三郎は音根の腕を掴むと立ち上がり、そのまま外へと連れ出してしまう。

一人残された雷蔵は、先程まで二人が並んで座っていたソファを見つめ、悲しそうな表情を浮かべる。



「僕は、そんなに三郎を取られたくないのか……?」



ポツリと呟いた言葉は自分に問いかけるようで、雷蔵の脳裏には、出掛けるときに嬉しそうにしていた三郎の姿が浮かぶ。

それはきっと、音根と会えることが楽しみだったからなのだと今ならわかる。


学校が休みの日に、わざわざ家まで来て二人きりでいる。
それは、周りの女の子達が言うように、二人が付き合っていると思わせるものであり、少なくても、三郎に腕を引かれ出ていくときの音根の頬は赤く染まっているのが見えた。



「あんなの、好きだって言ってるようなものだ……」



それから音根を送ってきた三郎が帰ってくると、雷蔵は何もない振りをした。

友達なら、嫉妬ではなく応援をしなければいけないと自分に言い聞かせた。



「音根ちゃんと、最近よく話してるよね」

「うん、まぁ」

「驚いたよ。まさか家に音根ちゃんがいるとは思わなかったから」

「あ、ああ!何か勉強でわからないとこがあるみたいで教えてたんだ」



三郎の言葉が嘘であることはすぐにわかった。

音根が持っていたのは小さなバックだけで、勉強を教わりに来たというには、教科書やノートすら入らないものだからだ。

だが、雷蔵はそれ以上聞くことはしなかった。
二人が付き合っていて、上手くいってるのならそれでいいんだと思ったからだ。


それから数日が過ぎたある日の夜。
何時ものように三郎が、雷蔵そっくりにメイクをしリビングのソファに座っていた。



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