忍たま乱太郎
□自惚れあなたの言う通り
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「ああ、そういえばあの子、時々見かけたことがあったなぁ」
だからといってどうというわけでもないが、音根の姿を見たからか、ぼんやりとあの日のことが思い出される。
怪我をした自分を心配そうに見つめる姿。
痛みで汗をかくと何かが触れる感覚は、音根が布で汗を拭いていてくれたのだろう。
少しずつ思い出されるぼんやりとした記憶の中で、一つだけハッキリと覚えていることがある。
それは、痛みで苦しむ自分に何度も、頑張ってくださいとかけられた言葉だ。
そんなことを思い出していると、いつの間にか音根は食堂の中に入ってしまっており、こっそり中の様子を確認すると、伏木蔵と音根が話している姿が見える。
そしてその話す声音は、自分に励ましの言葉を掛けたものと同じ声音で心地がいい。
結局その日は礼を言えぬまま、それから数日が過ぎていた。
気づけばあの日から毎朝忍術学園に通う毎日が続いており、これはすでに礼を言うためではなく恋だった。
「まさかこの歳で恋とはね」
礼は結局伝えられていないまま日にちだけが過ぎていったある日、偶然見つけた花を切っ掛けに、昆奈門は忍術学園に向かった。
「それが、今そこに飾られている花な訳だけど、結局お礼は伝えられてなかったよね。あの時はありがとう」
話を聞いて音根もあの時のことをようやく思い出すが、できもしないのに手当てをしただけであり、礼を言われるようなできではなかった。
そんなこと昆奈門も気づいてるはずだが、それでも、そんな些細なことが昆奈門の中では大きく膨らんでいたんだと思うと、何だか嬉しい気持ちになる。
「お礼を伝えることができてよかったよ。でも、私にはもう一つ目的があるからね」
昆奈門は隠れていた口許の布を下げると、音根に唇を重ねた。
触れるだけの口づけをすると昆奈門は口許を再び隠し、返事がまだだったよねと、包帯の隙間から覗く目が細められる。
「普通は、返事を聞いてからじゃないんですか?」
「そうだね。でも自惚れじゃないなら、きっと返事を聞いたあとでも同じだったんじゃないかな?」
「自惚れすぎじゃないですか?でも、正解です」
布越しに口づけると昆奈門の目が見開かれ、驚いているのがわかる。
お返しというように、返事の前に先に口づけをすると、音根は微笑み口を開く。
「私も、雑渡さんのことが好きです」
伝える前から気持ちをわかられてしまったのはなんだか悔しいが、力強く抱き締めらたこの感覚が嬉しくて、悔しさよりも幸せが勝ってしまうのだから不思議だ。
自惚れあなたの言う通り