忍たま乱太郎

□髪結いから始まる恋
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昼時、くの一教室の長屋にて、何やら天井から気配がし飛苦無(とびくない)を投げつけると、紫の装束を着た上級生が降ってきた。

ちなみに飛苦無とは、苦無を投擲用に薄く改良したものであり、10mくらいは飛ばすことができる。
だが、それ以上になると命中率も威力も落ちてしまう。



「あなた、名前は?ここがくの一の長屋だと知ってるわよね?」

「あはは、ごめんね。僕は四年は組の斉藤 タカ丸っていうんだけど」



斉藤 タカ丸(さいとう たかまる)。
その名は何処かで聞いたことがあり記憶を遡ると、前にくの一達が話していた会話を思い出した。

タカ丸は元髪結いであり、くの一の女の子から人気が高い忍たまの一人だ。

四年生の年齢は皆13なのだが、タカ丸は15であり、年齢からいえば六年生なのだが、忍術の経験がないことから四年生として編入してきたと、くの一の女の子達が話していたことを思い出す。



「それで、そのタカ丸さんがくの一の長屋に何のご用なの?」

「うん。君に会いに来たんだ」



タカ丸と音根が会ったのが今が初めてであり、会いに来たと言う言葉に疑問符が頭に浮かぶ。

そんな音根のことなど気にせず、タカ丸はニコニコと笑みを浮かべながら話始める。



「忍たまの皆から聞いたんだ。くの一の音根ちゃんの髪が凄く綺麗だって」



タカ丸の話によると、忍たまの六年生で立花 仙蔵(たちばな せんぞう)というサラサラストレートな髪、略してサラストな髪をもつ人がいるのだが、その人よりも音根の髪が綺麗だという噂を何処からか聞いたようだ。

そこまで凄い髪なら、元髪結いとして一度見てみたいと思ったタカ丸は音根と会おうとしたのだが、くのたまと忍たまの教室と長屋は隔離されているため無断で侵入することは禁止されている。

理由があれば会うことは許されるのだが、そんな時間も惜しいくらいに音根の髪を見たかったタカ丸は、くの一の長屋に侵入し今に至る。



「わざわざ侵入してまで私の髪を見に来るなんて……」



呆れて何も言えないとはこの事だと実感した音根は、深い溜息を一つ吐く。



「うわぁ!本当に綺麗な髪だねぇ。よく手入れされてる」

「ちょっ!?何勝手に触って、っ!?」



タカ丸は、音根の髪を一束掬うと、瞳をキラキラと輝かせながら言う。

止めようとする音根だが、今度は髪を撫でられ、まるで頭を撫でられているのと同じで頬に熱が宿る。



「こんな綺麗な髪始めてみたよ!ねぇ、髪結いさせてくれないかな?」



そう言いながらすでに髪結いの道具を構えており、音根の返事を待たずして、頭の上で束ねられていた髪紐はほどかれ、タカ丸の素早い手さばきで髪はあっという間に結われてしまう。

完成した髪を鏡で見ると、先程まで高い位置で纏め上げられていた髪は下で結われており、大人な女性といった雰囲気を感じさせる。



「す、凄い……!!ただ下で纏めただけに見えるけど、サイドの髪は編み込まれてるのね」

「よかった。気に入ってもらえて」



噂では、とても個性的な髪型にされることが多いと聞いていた音根だが、自分の今の髪型には大満足だった。

ただ、それとこれとは話が別であり、髪結いが終わったところで説教の時間だ。

タカ丸に正座をさせると、くの一の長屋に侵入したことなどを改めて叱る。



「今日は休暇で、ほとんどのくのたまが町に出ていたから気づかれずにすんだけど、もし知られたら罰則が課せられるんだからね!」

「あはは、ごめんなさーい」



おっとりとした性格のタカ丸を前に怒っていると、なんだか怒っているのがばかばかしくなり、これからは気を付けてくださいねと忠告する。

勝手にされたこととはいえ、素敵な髪型にしてくれたことの礼として今日だけは見逃すことにし、タカ丸には、くのたま達が戻ってくる前に忍たまの敷地に戻るように促す。



「うん、わかった。でも、戻る前に一つ頼み事があるんだけど」

「頼み事?」



目的は果たしたはずだというのに、その上頼み事とはなんだろうかと首を傾げると、とんでもない一言を残しタカ丸は去っていった。

呼び止める音根の声などタカ丸には届かず、音根は深い溜め息を一つ吐く。


そしてその日の夜、音根が風呂から上がり部屋に戻るとそこにはタカ丸の姿があり派手に転ぶ。



「な、何であなたはまた来てんのよ!?」

「え?だって今日言ったでしょ。夜に髪をとかせてほしいって」

「ええ、聞いたわよ。でもねぇ、私は了承した覚えは、って、何勝手に髪をとき始めてるのよ!!」



昼刻、タカ丸が去り際に言い残した頼み事というのは、これから朝は髪をとかせてほしい、そして夜には髪を結わせてほしいというものだった。

勿論そんなこと了承できるはずないが、音根が断るより先にタカ丸はその場から去ってしまったため、結局返事はしていない状態のはずだ。

だが、返事をしていないにも関わらず、タカ丸は今音根の部屋に訪れ、髪を丁寧に櫛でといている。



「あなたねぇ……」

「あ、音根ちゃんからいい香りがする」



怒っている音根のことなどお構い無く、タカ丸は掬い上げた髪に鼻を近づけると笑みを浮かべ言う。

そんなマイペースなタカ丸を見ていたら怒る気力もなくなり、音根は髪の手入れが終わるのをじっと待った。


しばらくしてようやく髪から手が放されると、できたよとタカ丸の声が聞こえ鏡を見る。

すると、いつも以上に艶のある自分の髪が鏡に映っており、ここまで変わるものなのかと不覚にも感心してしまう。



「それじゃあ、僕は行くね。また明日の朝来るから」

「え!?ちょっ!!」



結局この日断ることはできず、また明日も侵入して来るのだろうと思うともう溜息すらでない。

いつ見つかるともわからないため、明日こそはちゃんと断らなければと思いながら、音根は眠りへとついた。


そして次の日の朝がやって来ると、自分の名を呼ぶ声で目を覚ます。

すると、目覚めの一番最初に音根が目にしたのはタカ丸の姿だった。



「な、ななななんであなたがここに!?」

「それは、音根ちゃんの髪を結わせてもらうためだよ。でも、先ずは着替えないとね」

「って、何脱がそうとしてるのよ!?自分で着替えられるから部屋から出ていてください」



言いかけたところで音根は言葉を呑み込んだ。

廊下に出ていられては、他のくのたまに見つかってしまう。



「う〜、仕方ない……。タカ丸さん、そこで後ろを向いて更に目を瞑っていてください!絶対に振り向かないでくださいね」



振り向いたら髪結いは絶対にさせませんからと忠告すると、タカ丸はわかったと頷き音根に背を向ける。

その間に、音根は着ていた寝着を脱ぎ装束に着替えると、タカ丸に声をかけ髪結いをしてもらう。

早く終わらせてもらい帰ってもらおうとしたのだが、素敵な髪型にまたも感激してしまう。



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