忍たま乱太郎
□髪結いから始まる恋
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「これは?」
「口に合うかわからないけど、私が作ったの、よければどうぞ」
美味しそうな香りにお腹が鳴ると、タカ丸は手を合わせいただきますと言い目の前に置かれた料理を食べる。
どれも美味しく綺麗に全て完食し、くの一にお礼を伝えると、気にしないでと言いながら後片付けをする。
「僕も手伝うよ」
「え、大丈夫だよ。あなたは当番じゃないんだから気にしないで」
「ううん、手伝わせて」
こうして二人で片付けを終えると、タカ丸は名前を聞いていなかったことを思い出し聞こうとするが、このあと課外授業があるんだったと思い出したくの一の子は、またねといい去ってしまった。
そのあと、タカ丸と同じ四年生にもそのくの一のことを聞いてみたが、誰一人としてその人物をしる者はいない。
あまり目立つような人ではなかったため、知っている人物が見つからず、だからといってくの一と会える機会はなかなかない。
あるとすれば、男女共用の食堂になってしまうわけだが、いつ来るかわからない人物を探すことは難しく、食堂で周りを気にしながら食べていると、聞き覚えのあることが聞こえ入り口へと視線を向ける。
するとそこには、探していた人物の姿があった。
たが、同じくの一の友達と一緒らしく声がかけられずにいると、一人のくの一が音根という名を口にする。
その日から、音根のことをいつの間にか目で探すようになったタカ丸は、あのくの一の名前が風明 音根であることを知り、何かまた話せる機会はないかと考えた。
そこで思い付いたのは、音根の髪だった。
音根の髪は他の人より綺麗で、これは話す切っ掛けになると思い色々と理由などをつけて近づいたのが、あの日タカ丸がくの一の長屋に侵入した日だ。
「あの時の……」
「やっと思い出してくれた?」
ニコニコと笑みを浮かべるタカ丸は告白の返事を聞かせてほしいというが、音根の返事は決まっていた。
「ごめんなさい」
「え……?」
「タカ丸さんが私のことを思ってくれていたのはわかったけど、正直私はタカ丸さんに恋愛感情は持ってないと思うの。それに、タカ丸には悪いけど、今の話を聞くまで気づかなかったから」
だからタカ丸の気持ちには答えることができないことを伝えると、タカ丸は顔を伏せてしまう。
傷つけてしまっただろうかと思っていると、タカ丸は何時ものようにフニャッと笑みを浮かべ、ならこれからもっと仲良くなって好きになってもらうねと言い、音根の髪を一束掬うとそっと口付けた。
「今はこれだけで我慢するよ」
「っ……!?できれば、それも辞めてほしいなぁ……」
心臓が高鳴り持たないため、小さな声で口にするが、髪をとき始めるタカ丸は集中してしまい音根の声は聞こえなかったようだ。
「何か言った?」
「はは、何でもないよ」
ハッキリともう一度言えばよかったのに言えなかったのは、きっとそれを嫌だと思わなかったからかもしれない。
髪結いから始まる恋