忍たま乱太郎
□知って知らずも苦しい心情
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「今頃気づくなんて、どれだけ僕は冷静じゃなかったんだろ」
これじゃあ二人のことばかりも言えないなと思いながら、疲れているのかぐっすりと眠っている音根を起こさないように、体についた土だけでも落とそうと装束に手をかけ上を脱がそうとしたその時、体に巻かれている物に気づき手を止めた。
それは、音根が女であるという確信に繋がるものだ。
だが不思議と驚きはしなかった。
時々思わせる女の仕草。
文次郎や留三郎のような忍者でさえも惹き付けてしまう魅力。
それは、男にはないものであり、心のどこかで気づいていたんだ。
音根は、女であることに。
だが、女であることを隠しているのなら、これは見なかったことにしようと、装束を整える。
汚れたままにするのはどうかと思うが、女である音根の肌を見るわけにもいかない。
それに何より、もし着替えさせている最中に誰かが来るなんて事態になれば、音根が女であることを知られてしまう。
そんな状況にならないためには、今はこの選択しかないのだ。
そして、自分は何も見なかった事にし、忘れるしかない。
「んっ……伊作……」
「起きたんだね」
「うん。ごめんね、医務室借りちゃって」
「大丈夫だよ。それより、汚れた装束は着替えた方がいいから、部屋まで送っていくよ」
頷く音根に肩をかし、六年の中屋へと向かう。
部屋に着くと、何やら音根は落ち着きがなく、その理由に伊作は気づき立ち上がると、僕は保健当番だから戻るねと言い残し部屋をあとにした。
きっと、自分がいては女であることに気づかれてしまうため、着替えることができず困っていたのだろう。
そんなことを考えながら医務室に戻る途中で、文次郎と留三郎と会った。
どうやら反省した二人は、音根に謝ろうと医務室に戻ったらしいが、伊作も音根の姿もなかったため、部屋に戻ったのかもしれないと向かう途中だったようだ。
「悪いけど二人とも、今音根は部屋で休んでるから、もう少し時間を置いてから行ってもらえるかい?」
今二人が部屋に行けば、音根が着替えているところを見られてしまうかもしれないと思った伊作が機転を利かす。
二人が頷きその場を去ると、伊作は医務室に戻り小さな溜息を漏らす。
さっきあったことは忘れなければならないのに、音根が女であることを意識してしまう。
「僕も、いつの間に二人と同じ気持ちを抱いてたんだ……」
自分の気持ちに気づいても、この想いはさっきあったことと同じ様に、なかったことにしなければならない。
それは、とても辛く悲しいものなのかもしれないが、女であることを隠している音根のためになるのなら、その苦しみさえも心の奥底に封じよう。
知って知らずも苦しい心情