忍たま乱太郎

□軽い言葉も本気の言葉
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恋の終わりとはいつも突然だが、そんな終わりは自分達には来ないと思っていた。
だが、どうやら違ったらしい。

ここに一組のカップルがいる。
高校1年で同じクラスでもある、い組の風明 音根と綾部(あやべ) 喜八郎(きはちろう)

授業も終わり下校時間、何時もなら一緒に帰るのだが、今日は大事な話があるからと、人目につかない場所まで連れてこられた喜八郎の耳に突然の別れの言葉が告げられた。



「ごめんなさい……」

「え?全然わからないんだけど」



一方的に別れを告げられ謝られても、全く理由がわからず、何か自分はしてしまったのだろうかと考えるが、思い当たることもなく、本人に直接訪ねると、答えはあっさりとわかってしまった。

どうやら他に好きな人ができたようだ。
それは、同じクラスの(たいらの) 滝夜叉丸(たきやしゃまる)なのか、それともクラスは違うが同じ学年の田村(たむら) 三木ヱ門(みきえもん)なのか、喜八郎が知る限りでも沢山の人物の名が上がる。

だがどうやら違うらしく、音根は首を横に振ると、上級生の先輩であることを話す。

眉を寄せ申し訳なさそうに視線が下へと落とされる音根の姿に喜八郎は、自分の胸にぐっと掴まれたような痛みを感じる。

だが、そんな表情を見せてしまえば音根を心配させてしまうと思い、何時もの軽い口調で、そっか〜なら仕方ないねと口にする。

それでも音根の表情が曇っていたため、喜八郎はちょっとした嘘をついてしまった。
その嘘とは、自分にも実は他に好きな人が出来たというものだ。
同じ様に自分にも好きな人が出来たとわかれば、音根の罪悪感も少しは軽くなるだろうと思ったからこその嘘だった。
そして喜八郎の思った通り、自分と同じなんだと知った音根の表情は少し柔らかくなる。



「まぁ、そういうことだから」

「うん。あの、えっと、都合のいい話だと思うけど、これからは友達としていられないかな」



不安そうに尋ねてくる音根に、喜八郎は勿論いいよと軽い返事を返す。

その言葉を聞いた音根は笑みを浮かべ、ありがとうとお礼を言った後、一人で帰ってしまう。

だが、その背を見詰める喜八郎の瞳は悲しみの色に染まっていた。
あんな一方的な別れだったというのに、今も音根の事が好きな自分は何故受け入れてしまったのかと後悔する。
それも、あんな嘘までついて。

自分が傷つくとわかっていても、音根に悲しい顔なんてしてほしくなかった。



「これからどうしたらいいんだろ」



悲し気に漏れた言葉は静かに消え、喜八郎は心に靄がかかった思いで家へと帰る。

何時もなら、音根と一緒に歩く帰路も一人だと寂しく感じてしまう。

付き合う前は一人で歩いていたというのに、今ではどうして一人で帰れていたのかわからない。
そんなことを考えながら重い足を前に出し歩いていると、後ろから声をかけられ振り返る。
するとそこには滝夜叉丸の姿があった。



「珍しいな、喜八郎が一人なんて」

「悪いけど、今は滝夜叉丸なんかに構ってる暇ないから」

「なんかとはなんだ、なんかとは!!まぁいい、それより元気がないようだが、何かあったのか?」



一番会いたくない人物であり、今一番聞かれたくないことを聞いてくる滝夜叉丸に、喜八郎は嫌そうな表情を浮かべる。

滝夜叉丸は喜八郎のことを嫌ってはいないが、喜八郎は滝夜叉丸のことを嫌っていた。
理由なんて忘れてしまったが、滝夜叉丸の自慢話が始まるとうんざりとするのだ。



「何故そんな顔をする?私ならいくらでも話を聞いてやるぞ。この、成績優秀で顔も良く――」



長くなりそうな自慢話には付き合いきれず、喜八郎は滝夜叉丸を置いてその場を去る。

だが、気づいた滝夜叉丸は慌てて喜八郎の後を追ってくると、横でぐだぐだとまだ一人で話している。



「あのさ、滝夜叉丸は僕の悩みを聞きたいわけ?それとも、自分の自慢話がしたいの?」



あまりに鬱陶しいので怒ったような口調で言うと、滝夜叉丸はフッと笑みを浮かべ、やはり悩み事があるんじゃないかと口にした。

しまったと思ったときにはすでに遅く、滝夜叉丸は話してみろと言ってくる。

本当はこんな話誰にも話したくなく、特に滝夜叉丸には言いたくないのだが、このまま放っておいても煩いだけだろうと思い、渋々先程の事を話す。



「てわけだから、もう放っておいてくれない」

「なるほど、喜八郎は音根にフラれてしまったというわけか。だが、まだ喜八郎は音根を想っていると」



放っておいてほしいのだが、滝夜叉丸は腕を組むと、私に任せておけ、と自信に満ちた表情を浮かべていた。



「いや、だから任せておけとかじゃなくて――」

「そうと決まれば先ずは音根の想い人を突き止めなくてはな」

「だから――」

「気にするな喜八郎。私とお前は同じクラスメイトであり友達なんだ。友が悩んでいたら力になるのは当然だ」



結局、滝夜叉丸は喜八郎の言葉を聞かないまま、明日は二人で音根の想い人を突き止めるぞと言い残し先に帰ってしまった。

煩いのがいなくなったのはいいが、何やら嫌な予感しかしない。
音根の好きな相手を知ったところで、音根の気持ちがもう自分にないのなら意味がないことだというのに、一体滝夜叉丸は何を考えているのか。


そんな事があった翌日。
朝から音根と顔を合わすのは同じクラスなのだから仕方がないのだが、昨日の今日で平然とできるはずもなく、ぎこちなくも挨拶を交わすと席につく。

朝から一気に元気を無くした喜八郎が溜息を溢すが、その溜息は滝夜叉丸の声により掻き消された。



「喜八郎!!」

「何?朝から煩いんだけど」



迷惑そうな表情は浮かべる喜八郎に、滝夜叉丸は昨日のことを忘れたのかと言う。

その言葉で、昨日滝夜叉丸が去り際に言い残した言葉を思い出す。



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