忍たま乱太郎

□歌姫は赤く染まって 前編
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「風明さん」



 声をかけると、膝を曲げ、小さく丸くなり顔を伏せている音根の肩がビクッと跳ね上がる。

 だが、顔は上げてくれず返事もない。
 そんな音根の隣に座ると兵助は口を開き、最初に出た言葉はごめんの三文字だった。



「俺、皆の誤解を解きたくてさ。でも、逆に風明さんを傷つけちゃったよな」



 誤解が解ければ、きっと皆音根を見る目が変わる。
 兵助はそう思い五年生にも声をかけ呼んでいたのだが、それは余計なお世話だったのかもしれない。

 結局自分がしたことは、音根に嫌な思いをさせてしまう結果となった。



「でも俺は、風明さんが理由もなく人を無視したりする人じゃないと思ってるから。もし何か理由があるなら、皆に話せばきっとわかってもらえるよ」

「……の……して……なるの」



 顔を伏せながらも、何かを伝えようとしている音根の言葉に耳を傾けると、ようやくその言葉が兵助に届いた。



「二人以上の人だと緊張して、話せなくなるの」



 その理由は可愛らしいものであり、よく見れば、髪の間から覗く音根の耳は赤く染まっていた。

 食堂でずっと顔を伏せていたのは、赤くなった顔を見られないようにするためで、無視しているように見えたのは、緊張して話せなかったからなのだと知り、これで全てのことに納得がいく。



「食堂に戻ろう。もう皆部屋に戻ってると思うけど、少しずつ慣れていって誤解も解いていけば大丈夫だよ」



 兵助の手が音根腕を掴むと、音根は伏せていた顔を上げ頷く。

 そして二人が食堂に戻ると、何故か五年生達の姿があり、皆の目の前に置かれた豆腐は誰一人手をつけていない。



「皆、どうして?」



 すでにあれから時間は経っており、食べ終わって部屋に戻るくらいの時間はあったはずだ。



「決まってるだろ。兵助と風明さんを待ってたんだ」



 勘右衛門がニッと笑って言うと、座っていた三郎と雷蔵が立ち上がり、音根に近づいていく。

 言いにくそうにしている三郎を促すように、雷蔵が三郎の肩を叩くと、三郎は音根に視線を向けると頭を下げ謝罪した。



「ごめん。よく知りもしないのに酷いこと言って」

「俺からも謝らせてもらうよ。さっきの校庭での話、実は僕達も聞いてたんだ」



 兵助が音根を追いかけて行ったあと、雷蔵が三郎を叱り、心配した皆が二人のあとを追いかけてきていた。

 校庭で見つけた二人の会話を聞いた皆は、先に食堂に戻り今に至る。



「僕も最初は周りが話してた噂を信じてたんだ。ごめん、風明さん」



 雷蔵も頭を下げ謝ると、他の五年生も、三郎が言っていたことを否定できなかったと謝罪し頭を下げる。

 そんな皆に対し音根は、顔を上げてと言う。



「私の方がいけなかったの。緊張する度に逃げてばかりで、無視してるって思われてもしょうがないよ。でも、これからは逃げない。皆ともっと仲良くなりたいから」



 顔を赤く染めながらも、顔を逸らさずニコリと笑う音根の姿を見た皆の口許にもようやく笑みが浮かぶ。

 そしてようやく、豆腐パーティーというなの親睦会が行われた。



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