薄桜鬼

□また1つイタズラの種が
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ある日の朝、平助は小丸に嫌われていることを一人考えていた。

他の人達とは楽しげに話す小丸だが、平助とだけはあまり話さずにいるため、自分は嫌われていると平助は悩んでしまう。



「やっぱオレって、小丸に嫌われてんのかなぁ……」

「ああ、そういや平助だけ、小丸の様子が可笑しくなるよな」

「おまえら、本気で言ってんのか?」



左之助の言葉の意味は、平助も新八にもわかっていないようだ。

どういう意味だと聞く二人だが、左之助は静かに、平助が自分で気づく事だな、と口許に笑みを浮かべながら言う。


結局答えは教えてもらえず、縁側で一人座り考えていると、掃除をしに来た小丸が平助の前に現れた。

声をかけようとする平助だが、小丸は平助と目が合ったというのにそのまま視線を逸らし掃き掃除を始めてしまったため、平助は声をかける機会を逃してしまう。

左之助に言われた言葉を考えながら、掃き掃除をする小丸を見つめていると、小丸は落ち着かない様子で掃き掃除を終わらせると、逃げるようにその場から去っていく。



「やっぱ、オレのこと嫌いなんだよな……」



特に好意を抱いているわけでもなく、町の人達からだって、新選組だと、嫌われなれている平助だが、嫌われて傷つかない訳ではない。

そんな平助が向かった先は、小丸がこの新選組内で一番仲がいいと思われる人物の元だ。



「あれ、珍しいね。僕に何か用?」

「あのさ、総司って小丸と仲良かったよな?」



事情を説明し、総司に答えを聞こうとする平助だが、総司がそう簡単に教えてくれるはずもなく、総司は笑みを浮かべると口を開いた。



「平助って、小丸ちゃんのこと好きなわけ?」

「な、ななッ!?何でそんな事になんだよ!!」



慌てる平助の様子を見ながら総司は笑うと、へぇ、と言いながら口許は笑っているため、どうやら信じていないようだ。

総司を相手にするのは止めようと、平助は一旦落ち着くと口を開く。



「ただ、理由もわからずに嫌われるってのが嫌なだけなんだ……」

「そっか。でもさ、それって直接本人に聞いた方がいいんじゃない?」



総司の言っていることは最もなのだが、いつも話そうとすると、小丸に避けられてしまうため、なかなか聞く機会が掴めないのだ。

結局総司から聞くこともできなかった平助だが、左之助も総司も、小丸が平助を嫌う理由を知っていようだ。

縁側に座り再び考えを巡らすが、嫌われるようなことをした覚えはなく、一人ではなかなか答えはでない。



「やっぱ総司が言うように、小丸に直接聞くしかないんだよな」



一人呟いた言葉に、ようやく気づいたようだなと返事が返ってきたため振り返ると、そこには一の姿があった。



「雪根に嫌われるんじゃないかと気にしているようだが、人に聞いたところで答えはでないだろう。本当のことが知りたいのなら、雪根に聞いてみることだ」



逃げていては知りたい答えもわからないだろうと言う一の言葉で、自分が小丸から聞くことを避けていたことに平助は気づいた。

聞けなかった理由は、機会を逃していたからでも、小丸から避けられていたからでもなく、知るのが怖かったからなのだ。

知らない今なら、小丸に声をかけることができる。
だが、もし嫌われている理由を知ってしまったら、どんな顔をして小丸に声をかけていいのかわからなくなる。

でもそれは、現実から目を逸らしていただけであり、このままの状態が続くだけだ。

このまま、知らないまま過ごせば楽なのかもしれないが、平助はこの関係のままでいるのが嫌だと、自分の中である決心をした。



「一くん、ありがとう。オレ、行ってくるよ。それと、総司と左之さんもありがとな!」



走って行く平助の背を見送り、隠れて様子を伺っていた総司と左之助が姿を表す。



「どうやら、平助は気づいていたようだな」

「平助のやつ、なんでこういうことには勘がいいんだ」

「まぁいいんじゃない。これで理由もわかるだろうしね」



平助の背中を押した3人は、このあとの二人のことを考えて笑みを浮かべる。


その頃、平助は、小丸の部屋の前まで来ていたのだが、なかなか声がかけられず立ち尽くしていた。



「平助くん、どうしたの?」



突然声をかけられバッと振り向くと、そこには、部屋にいると思っていた人物の姿があった。

だが、目が合うとすぐに顔を逸らされてしまい、平助は思い切って、聞きたいことを口にする。



「小丸が、何でオレのこと嫌ってるのか教えてほしくてきたんだ」

「え?」

「小丸が嫌がるようなことしたんなら、教えてほしいんだ!」



真剣な表情で言う平助は、勢い余って小丸の両方を掴みながら聞く。

小丸の方を掴んでいた自分の手が震えていることに気づくが、この震えは平助のモノではなく、小丸のモノだった。

小丸の体は震えており、目には涙が滲み出している。

そんな姿を見た平助は、小丸を怖がらせてしまっていたことに気づき、そっと肩から手を放すと、ごめん、と小さく呟きその場から去ってしまう。


部屋に戻った平助は、畳の上にバタリと倒れ、目の上に腕を置き顔を隠した。

更に小丸に嫌われてしまったと思うだけで胸が痛み、唇をぐっと結ぶ。


時は過ぎ、気づけば部屋は暗くなり始め、夜が来る。

夕餉の時間になるため、広間に向かわなければならないのだが、小丸に会うことが怖くて、足が重く感じてしまう。

それでも何とか広間まで着き襖が開かれると、そこにはまだ、小丸の姿がなくほっと胸を撫で下ろす。



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