ナンバカ
□宛先は誰にも知れず
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「わかりました!猪里さんの頼みなら聞きませんが、猿門さんの頼みなら」
「そうですね。ボクも猿門さんの頼みなら協力しましょう」
言葉にどこかトゲがあるものの、悟空の頼みならと、囚人番号2番のリャン、58番のウパは頷く。
5舎8房にはもう一人囚人がいるのだが、何故呼ばないのか、それは、何となくリャンもウパもわかっており聞くことはなかった。
「今日の鍛練は巫兎に任せてある、お前ら頼んだぞ」
「んじゃ、よろしくな〜」
二人が房を去った後、巫兎が囚人達を迎えに来ると、演習場での鍛練が開始された。
そしてその頃の猪里と悟空はというと、猪里は相変わらずサボって何処かへと姿を消し、猿門は仕事をしているものの、その手は先程から動いていない。
「アイツら、巫兎に上手く聞き出せたかな……。って、今は仕事に集中だ!!まったく猪里の奴、後から説教だな」
そして猪里はというと、一人休憩室の椅子に座り新聞片手に、競馬を聞いていた。
「あー!!また負けちまった!!」
叫びながらイヤホンを外すと、猪里は天井を見上げ、巫兎の事を考えた。
一体巫兎の好きな相手は誰なのか、それを知ったところで自分に勝ち目がないことはわかっている。
巫兎は猪里より遥かに若い女であり、猪里は巫兎にとっておじさんみたいなもんだ。
「俺じゃあ恋愛対象にすら見られてねぇんだろうな」
ぽつりと呟いた言葉はどかこか悲しげで、静かな休憩室で消えてしまうと、猪里は再びイヤホンをつけ競馬を聞く。
5舎の看守二人を恋に落とした巫兎だが、見た目は普通で特別可愛いわけでもない。
美人かと聞かれれば、特別美人というわけでもなく、その辺にいるような普通の女なのだ。
なら何故、そんな巫兎に看守二人も恋に落ちてしまったのかというと、彼女の外見ではなく中身だった。
「あれ?ここに置いといた書類がねぇ……」
「あ、それなら片付けておきましたよ」
こんな風に巫兎は、色々なことに気を回し、自分の仕事だけでなく皆の手伝いをしていた。
最初は、真面目なんだなと思っていた猿門だったが実際は違った。