ナンバカ
□腕の中で咲く桜
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「巫兎さん、初めまして。ボクは5舎8房、58番のウパです」
「5舎8房、2番のリャンだ」
次々に自己紹介タイムが始まるが、巫兎は変わらずその場で凛とした姿で表情も崩さず立っている。
ただ、13舎看守の巫兎だと、短く挨拶をするだけだ。
「お前ら、何俺らの看守口説いてんだよ!!」
「巫兎ちゃんは僕たちの看守なんだから!」
「この完璧なまで美しい見た目、そして、凛とした性格。お前らが相手にされるわけねーだろーが!!」
娯楽室では皆の喧嘩が始まってしまい、巫兎の肩がわなわなと震え出す。
そんな様子に気づいたジューゴは、怒っているのだろうかとチラリと横目で見ると、その表情にジューゴは目を見開いた。
巫兎の頬はほんのり色づき、恥ずかしそうに顔を伏せており、それはまるで、桜の花が咲いたように可愛らしい。
「ジューゴ、何んなところボケッとしてんだよ」
「ジューゴくんも他の皆に巫兎ちゃんが取られないように協力して」
「そうだぞ!巫兎に変な虫が着かないようにすんだ」
ジューゴに向けられた視線が、横に立つ巫兎へと向けられると、その場にいた皆の喧嘩がピタリと収まる。
どうやら巫兎の肩が震えていることに気づき、怒っているんだと思ったようだ。
だが、ジューゴには巫兎が怒っていないことがわかっているため、とくに慌てる様子もない。
「すみませんでした!!」
「ごめんね巫兎ちゃん、騒がしくして。もうしないから怒らないで?」
不安げに声をかけてくる囚人達に、巫兎はただ一言こう言った。
「一時間が経ちました。皆さん自分の舎の看守と共に帰ってください」
伏せている顔を上げた巫兎の表情は凛とした姿に戻っており、囚人たちは怒らせてしまったのだろうかとあたふたしながらも、皆の自分達の房へと戻される。
ジューゴだけが知る事実は、皆が巫兎の事を誉めすぎるあまりに恥ずかしくなったというものだが、その事実を話すことはないまま、囚人たちは巫兎に嫌われたんじゃないかと格闘していた。