ナンバカ
□その香りは恋の予感
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「よし!さっさと書類届けて帰ろ!」
13舎看守室をノックすると、さっき聞いたばかりの声で返事が返され、巫兎は扉を開けるとズカズカと一のいるデスクへと近づき、持ってきた書類をデスクの上に置く。
届けたわよと巫兎が言うと、一は、猿が子猿におつかいを頼んだのかとバカにする。
「こ、子猿ですってえぇ!?」
「ああ、さっきもキーキー騒いでたしな」
「それはアンタだって同じでしょ!!このハゲゴリラ!!」
煙草とは関係ないことで喧嘩を始める二人を止めるものはここにはおらず、二人しかいない看守室ではキレた二人が睨み合っていた。
巫兎は子猿と言われたこと、一はハゲゴリラと言われたことにより、どうやらお互いの怒りに触れたようだ。
「ハゲゴリラ……だと?」
「ええ、万年発情期のハゲゴリラさん、アンタなんて進化したらマウンテンゴリラよ!!」
そう言った途端、巫兎の腕と背に衝撃と痛みが走る。
一体何が起こったのか状況を確認すると、片方の手首は掴まれ壁に押し当てられており、背も壁に押し付けられ身動きが取れない。
そして目の前には一の顔があり、直ぐに状況は理解できる。
「なんのつもり?」
「俺は万年発情期のゴリラ何だろ?なら、その通りにしてやろうと思ってな」
ニヤリと口角を上げ、笑みを浮かべる一の瞳の奥がギラリと光る。
身の危険を感じた巫兎は逃れようと身を捩ったりと抵抗するが、一の力は普通の男でも出せないくらいの力であり、巫兎のような女一人の抵抗など意味がない。
無駄な抵抗をしている間にも、一の顔が巫兎へと近づき、すでに数センチしかない距離となっていた。
「っ……い、ゃ……」
絞り出すように言葉を溢すと、瞼をぎゅっと閉じた。
すると、唇に感じるであろうと思っていた感触はこず、手首を掴んでいた手も放されると、代わりに押し殺すような笑い声が聞こえ瞼を上げる。
そんな巫兎の瞳に映ったのは、巫兎を見ながら笑う一の姿だった。