ONE PIECE

□擦れ違う想い
1ページ/2ページ


 日差しが強いお昼。
 仲間の数人が甲板に出ていると、デレデレとした声が聞こえてくる。



「ナミすわぁ〜ん、ロビンちゅわ〜ん! 果汁100%のドリンクを持ってきましたよ〜」

「ありがとうサンジくん」

「丁度喉が乾いていたところよ」



 今日もハルの恋人は仲間の女の子にデレデレであり、そんな彼に悲しげな視線を向けていた。

 ハルとサンジが付き合いだして二ヶ月経つのだが、サンジのあの性格だけは無くなることはなく、いつものことだと思っていながらも、やっぱり目にするとそうもいかない。



「はぁ……」

「何溜息吐いてんだ?」



 大きな溜息を吐くと、近くにいたルフィに気づかれ尋ねられた。

 ルフィはいつも元気で、悩みなんて何もないようで、自分もルフィのようになれたらいいのに、なんて考えてしまう。



「ルフィが羨ましいよ」

「何がだ?」

「悩みがなくて」

「おれも悩みくらいあるぞ! 今日の朝飯は何かとか、おやつは何かとか、夜は何かとか」



 やっぱりルフィが羨ましい。
 自分もルフィみたいになれたらこんな思いしなくていいのだろうが、ハルにはルフィのようにはなれそうにない。



「どうぞプリンセス」

「……ありがとう」



 そんなことを考えていると、突然目の前に飲み物が差し出され、顔を上げるとそこにはサンジの姿があった。

 お礼を伝え飲み物を受け取ると、グラスを口に付け傾ける。
 すると、口の中に果実の甘酸っぱさが広がっていく。



「美味しい! 夏にピッタリだね」

「お褒めに預かり光栄です」



 お辞儀をするサンジを見て、クスッと笑みを浮かべると、突然ルフィの声が聞こえてくる。



「サンジ〜、腹へった〜、何か食い物くれ〜」

「ああ、待ってろ、今作ってやる。んじゃ、また後で」



 サンジはルフィとキッチンへ行ってしまい、ハルは一人グラスを片手に海を眺め溜息を漏らす。

 サンジと付き合っても特に変わったこともなく、付き合う前と何も変わらない毎日に少し寂しさを感じてしまう。

 二人の時間もなかなかできず、本当に付き合ってるのか不安になることさえある。

 こんなに悩んでいても、サンジが気づくことはなく、サンジは自分との時間がなくても平気なのかもしれないと考えれば考えるほど落ち込んでしまう。



「はぁ……」

「どうしたんだ? 何処か悪いなら見てやるぞ」



 また声に出してしまった溜息を誰かに聞かれてしまったらしく顔を上げると、そこにはチョッパーの姿があった。



「ありがとう、チョッパーちゃん。でも、何でもないから気にしないで」

「そうか? ならいいんだけど、何かあったら言えよ」



 そう言うとチョッパーは、船内へと戻っていく。

 なんだかさきほどから、皆に心配をかけてしまっているような気がし、溜息ばかり吐くわけにもいかないと思い、ハルは心を落ち着かせるために大きく深呼吸をする。



「お前も大変だな」



 深呼吸をしていると、突然後ろから声をかけられ振り返る。
 するとそこには、何時からいたのかゾロの姿があった。



「あはは、まぁね……」

「あのバカコックの何がいいかは知らねェが、あいつと付き合っててもお前が疲れるだけじゃねェのか?」

「そうなのかもしれないけど、惚れたもん負けだよ」



 サンジを好きになったのはハルの方であり、ハルがサンジに告白をして付き合っている。

 惚れたもん負け、まさにその言葉が自分にはピッタリだ。



「まぁ、人の恋愛にとやかく言うつもりはねェけどよォ。気にしてたら身が持たねェぞ?」

「うん、気を付けるよ。ありがとう、ゾロ」



 ぎこちない笑みを浮かべそう言ったはいいものの、女部屋へと一人戻ったハルが思い出してしまうのは、やっぱりさっきの光景だった。

 ナミとロビンは、ハルより先に麦わらの一味に入ったため、サンジとの付き合いが長い。
 そして、サンジがあんな性格じゃ仕方ない事なのかもしれないが、やっぱり気になって仕方がない。

 付き合ったら何かが変わるんじゃないかと思っていたが、結局何も変わらなかった。



「サンジは、本当に私のこと好きなのかな……」



 サンジの事だ、ハルを傷付けないように付き合ってくれている、なんてことも有り得るからこそ不安な気持ちを感じてしまう。

 ハルの表情が曇りかけていると、ドアをノックする音が聞こえ扉を開ける。
 するとそこにはサンジの姿があった。



「お昼ができたからプリンセスを呼びに来たよ」

「うん、ありがとう……。でも、今日は食欲ないからやめとくよ」



 こんな気持ちで食欲なんてでるはずもなく、それにまた、サンジがナミやロビンと話す姿なんて見たくはない。



「具合でも悪いのかい?」

「ううん、何でもないの。ほら、皆待ってるだろうから行って」

「あ、ああ……」



 自分のことを気にしている様子のサンジを追い出すように背を押すと、なんとか行ってくれた。

 サンジがいなくなると、一気に不安や寂しさがハルを襲い、ベッドに横になると枕に顔を埋め、一人また余計なことを考えてしまう。

 今サンジはきっと、またナミやロビンと仲良く話しているに違いない、そう考えただけで胸が苦しく締め付けられる感覚になる。



「ゾロの言う通り、このままだと私の身が持たないかもしれないよ……」



 気にしないようにと自分に言い聞かせ、このままじゃダメだと気持ちを落ち着かせると、ハルはキッチンへと向う。

 どうやら、皆はすでにお昼を食べ終えたらしく、キッチンではサンジが一人洗い物をしている。

 声をかけようと中へ入ろうとしたそのとき、窓から見えたのはナミの姿だった。

 ここからでは声は聞こえないため何を話しているのかわからず、気になりながらも隠れて見てるなんてよくないと思いその場を去ろうとしたとき、ハルの目に飛び込んできたのは信じられない光景だった。



「なんで……」



 ハルはその光景に涙が溢れ出しそうになるのを必死で耐え、その場から走り去った。

 脳裏にはさっきの光景がハッキリと浮かぶ、サンジがナミを抱き締める姿が。

 やっぱりサンジは自分のことなんて好きじゃなかったんだと、現実を目の前に突きつけられた気持ちになる。

 だが同時に、サンジが自分を傷付けないために付き合ってくれているのなら、もう終わりにしなければいけないのかもしれないと思った。

 そしてその日の夜、夕食を済ませ皆がいなくなったキッチンで一人洗い物をするサンジへとハルは近付き声をかける。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ