ONE PIECE

□擦れ違う想い
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「ハルちゃん、どうかしたのかい?」

「………別れよ」

「え……? どうしたんだい、急に」



 本当はこんなこと言いたくない、でも、サンジのためにも、そして自分のためにもこうするしかない。



「サンジって、私のこと好きじゃないでしょ」

「何言って」

「兎に角、そう言うことだから」



 サンジの言葉を聞くのが苦しくて、ハルはそれだけ伝えると逃げるようにキッチンを飛び出し女部屋へと戻った。



「ハルちゃん、どうかしたの?」

「元気がないようね」



 慌てて女部屋に入ったため、ナミとロビンがハルの様子が可笑しいことに気付き声をかけてくれる。



「本当に何でもないの」



 二人に笑みを向け、何でもない振りをするが、何でもないわけがない。

 これでよかったんだと自分に言い聞かせるが、好きな気持ちが無くなるはずもなく、ハルの胸を締め付ける。

 たが、ナミやロビンがいるこの場所で泣くわけにもいかず、ハルは必死に涙を堪えるしかなかったその時、扉をノックする音が聞こえると、サンジの声が扉越しに聞こえてくる。



「ハルちゃん、サンジくんみたいよ」



 ハルには、サンジと会って泣かない自信がなく、顔を伏せたまま動こうとせずにいると、突然伸ばされた手に腕を掴まれ扉へと引っ張っていかれてしまう。

 驚きに顔を上げると、ナミが腕を掴んでいた。



「ナミちゃん……?」

「何があったか知んないけど、ハルちゃんのそんな辛そうな顔してるのほっとけないわよ!」

「ナミちゃん……」

「私も、コックさんとしっかり話し合った方がいいと思うわ」

「ロビンちゃん……」



 二人に背中を押され、扉の前まで連れてこられると、ナミがハルの代わりに扉を開けてくれる。

 すると、扉の向こうからサンジの姿が現れた。



「ハルちゃん、話したいんだけど、少しいいかな?」



 返事の代わりに頷くと、二人で甲板へと向かう。

 静かな夜の海、周りは月明かりが照らし、海を煌めかせている。

 そんな中、二人の間には沈黙が流れ、あんな一方的な別れ方をしたから怒っているのかもしれないと考えていると、ハルの耳にサンジの声が届いた。



「別れるって、理由聞いてもいいかな?」

「……サンジ、私のこと傷付けないように、無理して付き合ってくれてるんでしょ」

「ッ、そんなことあるわけ――」

「見ちゃったの、今日サンジがキッチンで……キッチンでナミちゃんを抱きしめてるの」



 言い訳なんて聞きたくなくて、ハルはサンジの言葉を遮り話を続けた。

 サンジは驚いた顔をしてるが、もういいのだ。
 もうハルは、これ以上サンジを苦しめたくないのだから。



「だからもういいの……」

「何がもういいんだよ」

「大丈夫だよ。サンジがそんな辛そうな顔しなくても、私は傷付いたりしてないから」



 本当は、胸が苦しくて今すぐこの場から走り去ってしまいたいのだが、サンジに笑みを向け言う。

 すると、突然伸ばされた手に腕を引かれ、そのままハルの体はサンジの腕の中に収まってしまった。

 折角耐えていたというのに、こんなことをされれば笑顔が崩れてしまう。



「何が大丈夫だ。大丈夫な訳がないだろッ!!」

「サンジ、放して……」



 このままだと泣いてしまいそうで、ハルはサンジの腕から逃れようとするがびくともしない。
 それどころか、抱き締める腕に更に力が込められていく。



「おれがハルちゃんを、愛してる人を放すわけないだろ!!」



 ハルを逃がさないように、男の力で強く抱き締めるサンジは自分よりも辛そうな表情を浮かべていて、なんでサンジがそんな顔をするのかハルにはわからない。

 だが1つだけわかることがある。
 それは、サンジにこんな顔をさせているのが自分だと言うことだ。



「サンジ、もういいよ……」

「よくねェ!! まだおれは、ハルちゃんに伝えねェといけねェことがあるんだ。あの時、おれはナミさんに」



 キッチンであの時どんな会話をしていたのか、サンジはハルを抱き締めたまま話始めた。

 そもそも、ハルとサンジが付き合ってからなんの進展もないことに、ナミが心配してくれていたことが始まりだったのだ。



「じゃあ、抱き締めたこともないわけ!?」

「タイミングが掴めなくて……」

「女の子はいつだって待ってるものなんだからね! いいわ、私をハルちゃんだと思って練習してみて」



 ナミの提案で、サンジはナミをハルだと思うようにすると、ナミの姿をハルと重ね合わせてしまい、本気で抱き締めていたところを本人に見られてしまったらしい。



「すまない。練習だとしても、ハルちゃんに誤解させて傷付けちまった。でも信じてほしい、君へのこの想いは本気だってことを!!」



 真実を知ったところで、サンジがナミを抱き締めていた事実は変わらず、練習だとしても、ナミを抱き締めてほしくなかったというのがハルの本音だ。

 だが、それも全部自分のことを考えてしてくれていたことなんだとわかると、自然と悲しみは無くなっていく。

 ナミを抱き締めたことよりも、自分のことを好きでいてくれていたことが嬉しくて、つい笑みが溢れてしまう。

 ハルはサンジの背に手を回すと、ぎゅッとその体を抱き締める。



「もういいよ。でも、もうしないでほしいな」

「勿論! もうハルちゃんを傷つけたくないからね」



 悲しげに言うサンジとの距離が、僅か数センチであることに改めて気づき、近い距離に鼓動が高鳴る。

 考えてみれば、サンジとこんなに近付いたことは今までになく、密着している体が熱を帯び、鼓動が騒がしくなっていく。

 ハルとサンジは、お互いに顔を真っ赤に染め、バッと離れると、ハルは俯きサンジは顔を逸らしてしまう。



「これからは、二人の時間も作るようにしていこうか」

「う、うん」



 翌日から、夜には二人だけの時間が作られ、甲板で月を眺めるのが、二人だけの時間となった。

 大きな進展はまだないが、今はこの時間が二人にとっての幸せの時間であり、少しずつ愛を深めていきたい。

 想いが伝わらずに擦れ違うこともあるが、その度に、こうしてわかりあっていけばいいのだと気づいた。



「サンジ、愛してるよ」

「おれもだ」



 二人夜空の下で愛を囁き、近づく距離にゆっくりと唇が重なり合う。



擦れ違う想い
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