忍たま乱太郎

□何から話そうか 後編
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「いや、同じく五年の鉢屋(はちや) 三郎(さぶろう)か?」



三郎の変装は、忍たまは勿論、先生達ですら見分けがつかないほど上手く、半助も首を傾げてしまう。



「雷蔵くん?それとも、不破 雷蔵くんに変装している鉢屋 三郎くん?」

「不破 雷蔵ですよ」



どうやら雷蔵本人だったようだが、まさか雷蔵が音根の好きな相手なのではないかと思うと、音根に近づく全ての男がそう見えてしまう。

ぼーっと二人の姿を見つめながらそんなことを考えていると、音根の笑みが雷蔵に向けられている。


締め付けられる痛みに耐えながら後を追い、とうとう音根は自室に入ってしまった。

結局声はかけられず、それよりも不安な気持ちが半助の中で広がっていく。



「私は、風明先生にとって、どんな存在なんだろう……」



抜け忍となり、教師となった半助は音根が見てきた自分とは違う。

憧れてくれている音根に幻滅されたくなくて冷たくなってしまった自分は、音根の中で今どんな存在なのか。

知るのが怖い気持ちと現実から目を逸らしたくない気持ちが鬩ぎ合っていると、突然声をかけられ視線を向ける。



「きり丸、どうしたんだ?」



そこには、半助が担任を勤めるクラスであり、一緒に暮らしている同居人、一年は組の摂津の きり丸の姿があった。



「先生こそ、こんなとこで何してるんすか?」

「いや、何でもないんだ」



そう言いながらも、視線は音根の部屋に向けられており、何やら察したきり丸は何かを思い付いたようにぽんっと手を打つ。



「そう言えば、風明先生が土井先生のこと探してましたよ」

「風明先生がか?」



先程までずっと後をつけていたが、音根が半助を探しているようには見えず、きり丸の嘘であることはすぐにわかる。

だが、これは音根の部屋に行く理由になる。

ニコニコと笑みを浮かべるきり丸に騙されたふりをしようと、半助は音根の部屋の前まで行く。

戸越しに声をかけると、今さっき部屋に戻ったばかりの音根の声が聞こえ中へと入る。



「あの、私に話とは何でしょうか?」

「え?私に用があったのは土井先生なのでは?」



勿論、きり丸の話は嘘なのだから、音根が半助を探していた事実は無く、音根の反応は当然だ。

きり丸の行為を無駄にしないために、半助はきり丸から風明先生が探していたと聞いたことを話す。

勿論、音根本人はそんな覚えはないのだから首を傾げている。



「きり丸くんの勘違いだと思います。わざわざ来ていただいたのにすみません」



これで普通なら、間違いだったんですねと部屋を出ていくところだが、知っていてきているのだからそうはいかない。

音根の気持ちを知るのは怖くもあるが、このまま逃げ続けてはいけないと自分に言い聞かせ、伏せていた顔を上げると音根を真っ直ぐに見る。



「あの、風明先生は、私のことをどう思っていますか?」

「え!?あ、あの、どうとは一体どういう……」



動揺する音根を前に、半助の心臓も穏やかではなかったが、思いきって口にする。



「私のことを、その……好き、なんでしょうか?」

「えッ!?あ、え!?す、好きって、あの、一体何故そんなことを」



音根が自分に幻滅しているのではないか聞くために、口から出た言葉だが、もっと他に聞き方があったのではないかと後悔する。

これではまるで告白をしているようで恥ずかしさを感じながらも、もう後には引けない。


目の前の音根は答えに悩んでいるらしく、うーんと唸りながら考え出す。



「すみません。困らせてしまって。私はこれで失礼します」



半助は苦笑いを浮かべ言うと、部屋から出ていこうと立ち上がる。

答えに悩んでいる時点で、すでに答えは出ている。
幻滅していなければ、直ぐに返事が返ってくるはずなのだから。

内心立ち直れないほどのダメージを受けながら部屋を出ていこうとすると、背に声がかけられた。



「ッ……好きです!!土井先生と出会ったあの任務の日からずっと、私はあなたが好きです!!」



耳を疑いたくなるような言葉が半助に届き、音根へと振り返る。

音根の好きという言葉の意味を深く考えていない半助だが、それよりも今は、幻滅されていない、嫌われていないということが何より嬉しかったのだ。



「私はあなたの傍にいたくて忍術学園に来ました。そして土井さんは、一度しか会ったことのない私を覚えていてくれました」



その時のことを思い出しているのか、音根の口許には笑みが浮かんでいる。

一度しか会ったことがないのはお互い様であり、あの時、半助も自分のことを覚えていた音根に内心驚き嬉しかったことを思い出す。

だが、今ならわかる。
何故あの時胸が高鳴ったのか、何故幻滅されることを恐れたのか。

それは、すでにあの時半助は、音根に恋心を抱いていたからだ。



「あなたは私にこう言ってくれました。また、一緒に組めますねと」



柔らかな笑みを浮かべられると、半助は沸き上がる感情を抑えきれず音根を抱き締めた。

華奢な体を痛めてしまわないように、力を加減しながらも力強く音根の体を包み込む。


聞きたいことや話したいこと、伝えたいことが沢山ありすぎて、何から話せばいいのかわからないが、今はこのまま音根の温もりを感じていたい。


あの時、初めて二人が出会った任務以降、半助は音根のことが忘れずにいた。

また会えたら、そんなことを考えていた時もあったが、抜け忍となり、教師となってしまってはもう会うこともないだろうと思っていた。

そんな諦めかけていた想い人が、今こうして自分の腕の中にいるのだと思うとそれだけで幸せを感じ、つい口許が緩んでしまう。


しばらく抱き締めたあとそっと体が放されると、聞きたいことが沢山あるんです、と頬を染めながら音根は半助に言う。

それは半助も同じであり、時間は沢山ありますからゆっくり話ましょうか、と二人向かい合って話始める。

口を開いたのは同時であり、二人発した好きですという言葉は重なり、告白からのスタートも同時となった。



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