忍たま乱太郎
□お団子の甘い夢 前編
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「伊作のことですか?」
「うん……」
仙蔵と同室の文次郎はまだ鍛練らしく帰ってきておらず、二人だけの空間で先程の話になる。
「気にしないでください、と言っても無理でしょうね。でも、今回の伊作は不運ではなかったようですね」
仙蔵の言葉に首を傾げると、風明さんにこんなに心配してもらえるんですから、と笑みを向けられ、音根の頬は熱くなる。
仙蔵は音根へと近づき顔を寄せると、今は不運だったようですが、と言葉を続ける。
「出掛けていたせいで、風明さんと二人きりになる機会を逃したんですからね」
ニヤリと笑みを浮かべる仙蔵の顔がゆっくりと近づき、あと数センチで唇が触れそうになったその時、廊下から足音が近づいてくる。
その音で、スッと仙蔵が音根から離れると、戸の向こうから伊作の声が聞こえる。
「仙蔵、いるかい?」
仙蔵が返事をすると、戸が開かれ伊作が中へと入ってくる。
「相談があるんだけど、風明さんのお詫びにと思って。これ、喜んでもらえると思うかな?って、風明さん!?」
伊作の手には沢山の花があり、その花を渡そうと思っていた人物がいたことに驚き、伊作は慌てて花を背に隠す。
音根は立ち上がると伊作へと近づき、背に隠された花へと視線を向けると、そのお花、私に、と首を傾げる。
伊作は頷くと、背に隠した花をおずおずと音根の前に差し出す。
「着物を汚してしまったので、そのお詫びにと思ったんですけど。こんな花じゃお詫びになりませんよね」
苦笑いを浮かべながら引っ込めようとする手を音根は包み込むと、伊作の手から花を受け取り、そんなことないよと、花に負けないくらい明るい笑顔で言う。
「こんなに沢山のお花よく見つかったね」
「前に乱太郎と薬草摘みに行ったときに、沢山花が咲いている場所を見つけたんです」
そんな会話が交わされる中、一人楽しくなさそうにムッと二人を見つめる仙蔵の姿があった。
「仙蔵も一緒に行くだろ?」
「あ?ああ」
その花が咲いている場所に行こうという話をしていた伊作に、突然話をフラれ仙蔵は頷く。
六年生皆が音根に想いを寄せていることに気づいている伊作だが、まさか仙蔵も音根に想いを寄せているとは思っていないようだ。
それもそのはずだ。
仙蔵は他の皆と違い、音根を前にしたからといってわかりやすく顔や態度にはでない。
そんな仙蔵が音根を好きなど気づけるはずがない。
「私はそろそろ部屋に戻りますね」
「じゃあ、僕も」
二人部屋に戻っていくと、一人残った仙蔵はフッと笑みを溢した。
「私を誘うとは、どこまでも不運なヤツだな」
だからといって同情する気など更々ない仙蔵は、何か企んでいるような笑みを浮かべその日がくるのを待った。
それから数日後。
休暇で授業がない日に三人は予定通りその花畑に出掛けることとなり、伊作の案内のもと着いていく。
途中吊り橋があったり、石を足場にしながら川を渡ったりと、忍者でもくの一でもない音根にとっては険しい道のりとなったが、二人に助けてもらいながら何とか目的の場所に着くことができた。
「わぁ……!!」
音根は歓喜の声を漏らすと大きく深呼吸をし、花の香りを吸い込んだ。
「とっても素敵!」
「よかった、喜んでもらえて」
楽し気に話す二人だが、そんな二人の邪魔をするように、仙蔵は水が入った竹筒を音根に手渡す。