忍たま乱太郎

□お団子の甘い夢 前編
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「仙蔵も一緒に行くだろ?」

「あ?ああ」



その花が咲いている場所に行こうという話をしていた伊作に、突然話をフラれ仙蔵は頷く。

六年生皆が音根に想いを寄せていることに気づいている伊作だが、まさか仙蔵も音根に想いを寄せているとは思っていないようだ。

それもそのはずだ。
仙蔵は他の皆と違い、音根を前にしたからといってわかりやすく顔や態度にはでない。

そんな仙蔵が音根を好きなど気づけるはずがない。



「私はそろそろ部屋に戻りますね」

「じゃあ、僕も」



二人部屋に戻っていくと、一人残った仙蔵はフッと笑みを溢した。



「私を誘うとは、どこまでも不運なヤツだな」



だからといって同情する気など更々ない仙蔵は、何か企んでいるような笑みを浮かべその日がくるのを待った。


それから数日後。
休暇で授業がない日に三人は予定通りその花畑に出掛けることとなり、伊作の案内のもと着いていく。

途中吊り橋があったり、石を足場にしながら川を渡ったりと、忍者でもくの一でもない音根にとっては険しい道のりとなったが、二人に助けてもらいながら何とか目的の場所に着くことができた。



「わぁ……!!」



音根は歓喜の声を漏らすと大きく深呼吸をし、花の香りを吸い込んだ。



「とっても素敵!」

「よかった、喜んでもらえて」



楽し気に話す二人だが、そんな二人の邪魔をするように、仙蔵は水が入った竹筒を音根に手渡す。



「喉が渇いでしょう。よければ飲んでください」

「ありがとう」



音根は仙蔵から竹筒を受け取ると、入っていた水を飲む。

先程まで仙蔵が飲んでいたものだというのに、間接キスなど気にすることなく口をつけている。

その光景を目にした伊作は眉を寄せ、悲しそうな表情を浮かべている。

仙蔵の狙い通り伊作に見せつけることができたわけだが、伊作へのダメージはあるものの、音根は無自覚の為普段通りだ。



「んーっ!」



音根は背伸びをすると、草の上に寝転がる。

気持ちのいい風が頬を撫で、春が近づいていることを知らせている。



「二人も寝転がってみなよ。空が綺麗だよ」



手招きされて二人も音根の両隣で寝転がると、視界を青空が埋め尽くす。

風と一緒に花の香りか三人の元へと運ばれ、とても心地がいい。



「たまにはこういうのもいいね」

「そうだな」



伊作と仙蔵の口許に笑みが浮かぶのを確認すると、音根も視線を空へと戻す。

瞼を閉じると、風の音や草木が揺れる音などが聞こえ、音根はゆっくりと眠りに落ちていく。



「寝たみたいだね」

「呑気なものだ」



二人の間には、小さな寝息をたて気持ち良さそうに眠る音根の姿がある。

いくら友達といえど、こんな無防備な姿をさらしてしまう音根はいつ二人の想いに気づくのだろうか。


それからしばらくして、少し寒くなりだした頃、ようやく音根は目を覚ました。

春が近づいてきているといっても、まだ日が沈めば冷えてしまう。



「風明さんも起きたことだし、風邪を引くといけないから帰ろうか」

「そうだな。次期に日も沈み出す頃だ」

「え!?私そんなに寝ちゃってたんだ。ごめんね、二人とも」



しゅんとする音根の頭にふわりと手が置かれ、顔を上げると瞳に仙蔵の顔が映る。



「気にしないでください。私と伊作も途中寝ていましたから」

「そうですよ。なんだか、久し振りにゆっくりできた気がします」



三人はどうやらリフレッシュできたらしく、日が沈まないうちに忍術学園へと戻っていく。

たまには、想いを心の奥に仕舞いリラックスできる日があるのも悪くないかもしれないと思う伊作と仙蔵だが、忍術学園に一旦戻ると、しまっていた気持ちも溢れ出てきてしまう。



「じゃあ、一旦部屋に戻るね。またあとから食堂で」



そう言い部屋に戻ってしまう音根を見送ると、伊作と仙蔵も部屋に戻る。

二人部屋は別々のため別れる際、仙蔵の声で伊作は足を止め驚きの表情を浮かべながら振り返った。



「え?仙蔵、それってつまり……」

「もうわかるだろう?」



フッと笑みを漏らすと仙蔵はその場から去ってしまうが、伊作はその場で固まってしまっていた。

仙蔵から確かに聞こえたのは、音根は誰にも渡すきはない、という宣戦布告と思われる言葉だ。



「まさか、仙蔵まで僕と同じ気持ちだったなんて」



仙蔵は違うと思っていた伊作だが、何となくこんな予感はしていたのかもしれない。

例え誰が音根を好きであったとしても、伊作も簡単に奪われるわけにはいかない。



「まさか仙蔵もなんて、やっぱり不運だ。でも、これだけは不運に勝手見せる」

「伊作、部屋の前で何してるんだ?」

「ッ、留三郎!?いや、何でもないんだ。そうだ、鍛練はどうだったんだい?」



恥ずかしさを誤魔化すように尋ねると、留三郎は今日のことを部屋の中に入り話し出す。

今日は六年生皆、休日を有意義に過ごせたようだ。



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