忍たま乱太郎

□お団子の甘い夢 後編
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「私の手拭い……」



手拭いを返してもらうことをすっかり忘れており、音根の手拭いは仙蔵に持っていかれてしまった。

追いかけようとも思ったのだが、その時にはすでに仙蔵の姿はなく、あとから食堂で会ったら伝えようと、音根は自室に戻る。


そして朝食の時間となり食堂へ向かった音根だったが、そこに仙蔵の姿はまだないようだ。

キョロキョロと周りを確認するが、仙蔵の姿はない。



「誰か探していらっしゃるんですか?」

「あ、伊作くん」



仙蔵と同じ六年生の伊作なら何か知っているんじゃないかと尋ねると、伊作の表情が一瞬曇る。

だが、直ぐに何時もの伊作に戻ったため、気のせいだったのだろうかと、音根は気にしていなかった。



「仙蔵ならさっき廊下でスレ違ったので、もう少ししたら来ると思いますよ」

「そっか、ありがとう」



先に朝食を食べながら待ってようと考えていると、よければ一緒に朝食を食べませんかと伊作に誘われ、音根は頷くと伊作と向かい合わせになる形で座る。

入り口を気にしながら朝食を食べていると視線を感じ、前を向けば伊作と目が合う。



「どうかした?」

「いえ……。入り口を気にされてるみたいだったので」

「うん、仙蔵に用があるから、来たときに気づけるようにと思ってね」



音根の返事にまたも伊作の表情が曇り、やっぱりさっきのは気のせいじゃなかったんだと気づく。

先程から箸も止まっており、何か悩みでもあるんじゃないかと思い口を開く。



「伊作くん、どうかしたの?」

「え……?」

「何だか元気がないみたいだから。何か悩みがあるなら相談に乗るよ」



任せてと胸を叩くと、伊作は少し考えたあと何かを決めたらしく、音根に視線を向ける。

その目は真剣であり、どんな内容でもしっかり受け止めなければと音根の手に力が入る。

だが、伊作の口から出た言葉は、仙蔵にどんな用事ですかというものであり、失礼ではあるものの拍子抜けしてしまう。



「朝、落とした手拭いを仙蔵くんが拾ってくれたんだけど、ちょっと色々あって返してもらうの忘れちゃってたんだよね」



苦笑いを浮かべる音根の姿を見た伊作は、ほっと安堵の表情を浮かべると、それならいいんだと自分で何かを納得したようだ。

首を傾げる音根だが、何時もの伊作に戻っていることを確認し、再び箸を進める。

そんな会話をしていると、目的の人物が食堂に来たことにも気づくはずもなく、音根の隣にその人物は座る。



「仙蔵、来てたんだね」

「ああ。悪いな、邪魔だったか?」

「そんなことないよ」



普通に聞けばただの会話なのだが、何故か二人の間には火花が散っているというのに、二人の恋心にさえ気づかない音根にわかるはずもない。

音根は用事を済ませるために、手拭いのことを仙蔵に話す。



「さっき手拭いを返してもらうのを忘れちゃってたんだけど」

「ああ、それなら今外に干していますよ」

「え?」



仙蔵は食堂に来る前、返すのを忘れていた手拭いを水で洗い綺麗にすると、外に干してくれていた。

手拭いを貸してもらって、その上汚れてしまっていた手拭いを洗濯までしてくれたと聞き、有り難いやら申し訳ない気持ちになる。



「ごめんね」

「私が好きでしたことですから」



仙蔵は嫌な顔一つせず言っているが、そのせいで朝食が遅れてしまったんだと考えると、やはり、何か礼をしないわけにはいかない。

町に行って団子でも買って来ることにし、朝食が終ると早速音根は町へ向かう。



「お団子を六本、じゃなくて、十本お願いします」



一年のきり丸に紹介してもらったアルバイトで貯めたお金が役に立ち、この世界に来てバイトをしておいてよかったと感じた瞬間だった。

この世界でもお金はあった方がいいだろうと思い働いてはいたものの、忍術学園の人達が親切にしてくれるため、音根が自分のお金を使う機会は今までなかった。



「やっぱり、どの世界でもお金は大切だね!」



うんうんと一人納得しながら帰り道を歩いていると、岩に座る人物の姿が目に入る。

歩みを進めていくにつれ、その人物の姿がハッキリと見え、伊作であることがわかった。



「伊作くん、どうしたの?って、膝擦りむいてるじゃない!」

「少し転んでしまって。ですが、薬箱は持ってきていたのでよかったです」

「伊作くんらしいけど、何処かに行く途中だったなの?」



音根が尋ねると、伊作はほんのり頬を色づかせ、視線を下に落とすと口を開く。



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