忍たま乱太郎
□得られる者と失う者 後編
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「音根ちゃん、来てたんだね」
「う、うん。お邪魔してます」
顔を伏せてしまった音根は、きっと三郎と二人のところを見られたのが恥ずかしいのだろうと思うと、雷蔵の胸は痛みを感じた。
「そろそろ暗くなるし、家まで送ってくよ」
三郎は音根の腕を掴むと立ち上がり、そのまま外へと連れ出してしまう。
一人残された雷蔵は、先程まで二人が並んで座っていたソファを見つめ、悲しそうな表情を浮かべる。
「僕は、そんなに三郎を取られたくないのか……?」
ポツリと呟いた言葉は自分に問いかけるようで、雷蔵の脳裏には、出掛けるときに嬉しそうにしていた三郎の姿が浮かぶ。
それはきっと、音根と会えることが楽しみだったからなのだと今ならわかる。
学校が休みの日に、わざわざ家まで来て二人きりでいる。
それは、周りの女の子達が言うように、二人が付き合っていると思わせるものであり、少なくても、三郎に腕を引かれ出ていくときの音根の頬は赤く染まっているのが見えた。
「あんなの、好きだって言ってるようなものだ……」
それから音根を送ってきた三郎が帰ってくると、雷蔵は何もない振りをした。
友達なら、嫉妬ではなく応援をしなければいけないと自分に言い聞かせた。
「音根ちゃんと、最近よく話してるよね」
「うん、まぁ」
「驚いたよ。まさか家に音根ちゃんがいるとは思わなかったから」
「あ、ああ!何か勉強でわからないとこがあるみたいで教えてたんだ」
三郎の言葉が嘘であることはすぐにわかった。
音根が持っていたのは小さなバックだけで、勉強を教わりに来たというには、教科書やノートすら入らないものだからだ。
だが、雷蔵はそれ以上聞くことはしなかった。
二人が付き合っていて、上手くいってるのならそれでいいんだと思ったからだ。
それから数日が過ぎたある日の夜。
何時ものように三郎が、雷蔵そっくりにメイクをしリビングのソファに座っていた。
「また誰かをからかったの?」
「まぁな!」
ニヤリと笑みを浮かべる三郎だが、一体今日騙されたのは誰なのだろうかと、雷蔵は呆れながら溜め息を吐く。
「僕は先に眠るから。三郎、眠るときはメイクとりなよ」
「わかってるって」
テレビを見ながら後ろ手に手を振る三郎。
そんな三郎を残し先に布団に入った雷蔵は、三郎と音根が今どうなっているのか考えていた。
今も学校で、二人よく一緒にいる姿を見るため上手くはいっているのだろう。
あれから音根を家に呼んでいるのかはわからないが、二人っきりでまた前のようにいるんじゃないかと考えると胸か痛み、雷蔵は布団を頭まで被った。
そして翌日の朝。
目覚ましの音で目を覚ますと、横の布団では三郎が眠っていた。
それも、結局メークもウィッグも取らずに寝てしまっている。
目を覚まして自分が横にいるのは不思議なものだが、こんなことは慣れっこのため、雷蔵は気にせず支度をするとバイト先に向かう。
日曜日だというのにバイトを入れなければいけないのは、平日は学校や委員会があり働く時間がないからだ。
雷蔵も三郎も自分の小遣いは自分で稼いでいるため、休日に働くしかない。
だが、雷蔵と違い三郎は委員会に入っていおらず、学校帰りにその足でバイト先に寄り働いているため、休日は休みだ。
雷蔵も休日が休みになることが数回はあるため、そういう日に勘右衛門や兵助と遊んでいる。
「あっ!!スマホ忘れた」
バイト先に向かう途中、家にスマホを忘れてきてしまったことに気づくが、そこでも雷蔵の迷い癖が出てしまい、取りに戻るかこのままバイト先に向かうかと悩んでしまう。
そんなことを悩んでいる間にも時間は過ぎていき、スマホがない今、時間さえもわからないこの状況で雷蔵は慌てだす。
「走っていけば間に合うはず!」
雷蔵は悩んだ末にスマホを取りに行くことに決め、家まで慌てて取りに戻る。
まだ寝てるであろう三郎を起こさないように扉を開け中に入る。