忍たま乱太郎

□俺が笑えば君は咲く 後編
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「お待たせ、じゃあ帰、ッ!?」



今日だけは、せめて今日だけでも自分を見てほしくて、音根の腕を掴むと歩き出す。

そんな勘衛右門の様子に、音根はどうしたのと声をかけるが返事は返ってこない。



「勘衛右門くん?」

「…………」

「勘衛右くんッ!!」



叫ぶように名を呼ぶ音根の声でハッとし立ち止まる。

強く掴んでしまっていた腕を放すと、勘衛右門は後ろに振り返る。

するとそこには、不安気に自分を見詰める音根の瞳があった。



「ごめん…………」



ただその一言だけ勘衛右門が口にした後は、二人一言も会話はなく、まるで行きの時が夢だったのではないかと思えるほどに、道が長く感じた。


忍術学園に着くと、背を向けたまま勘衛右門は謝罪の言葉を口にしその場を去った。

その時、音根が何かを言い掛けたように見えたが、勘衛右門は足を止めることなく部屋に戻る。



「勘衛右門」



廊下を歩いている途中で名を呼ばれ視線を向けると、そこには雷蔵(らいぞう)、もしくは、雷蔵に変装した三郎(さぶろう)の姿がある。

どちらだろうかと考えていると、逢い引きはどうだったかと聞いてきたため三郎だと気づく。



「その様すだとダメだったみたいだね。話そうか迷ってたんだけど、今伝えておくことにするよ」



今なら諦めがつくだろうと、音根に気になる人ができていたことを勘衛右門に教えた。

少しはショックを受けるだろうと思っていた三郎だが、勘衛右門は少し表情を曇らせ、そっかと軽く頷くとその場を去ってしまう。



「本気だと思ったけど、私の勘違いだったかな?」



ポツリと呟いた三郎は気づいていない、去っていく勘衛右門の顔が歪んでいることに。


初恋の相手、そんな簡単に諦められるような想いではない。

だが、あんな顔を音根にさせてしまった自分が、音根を好きでい続けていいのかわからなくなっていた。


勘衛右門が部屋に戻ると、同室である兵助の姿がそこにはあり、お帰りと声をかけてくる。



「勘衛右門、音根と出掛けてたんだろ?」

「何で知ってるんだ?」

「昨日、音根が楽しそうに話してたからさ」



その言葉で、伏せていた勘衛右門の顔が上げられ、床を見ていた視線が兵助に向けられた。

音根が自分と出掛けるのを楽しそうに話していたなんてあるはずないのに、確かに兵助はそう言った。



「音根が俺以外と出掛けるなんて初めてだからさ、誰かと思ったら勘衛右門で尚更驚いたよ」

「兵助以外で初めて……?」

「そうなんだ。音根って誘われることはよくあるんだけどさ、全部断ってんだよ」



全く知らなかったことに、少しの期待と不安が募る。

もしその話が本当だとしたら、何故音根は兵助の事ばかりを話していたのか、いくら考えたとしても、答えはでないだろう。



「あ!そういえば豆腐どうだった?」

「豆腐?何のことだ?」

「音根に教えたんだよ、オススメの豆腐屋!そしたら、尾浜くんと食べに行くねって言ってたからさぁ、って、勘衛右門?」



自分は、どれだけ自分のことで頭が一杯だったんだと腹が立つ。

記憶を辿り思い出してみると、音根は最後に寄った豆腐屋で言っていたんだ。



「ここのお豆腐は兵助が凄く美味しいって話しててね、勘衛右門くんと一緒に食べたいなって思ったの!」



音根は最初から、ちゃんと勘衛右門のことを見ていた。

兵助のことを話していたのも、勘衛右門が思い付かなかったように、音根も話題が思い付かなくて兵助のことを話していただけだったんだと気づく。

兵助は音根だけじゃなく勘衛右門にとっても大切な友達であり、二人の共通の友達だ。



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