忍たま乱太郎

□髪結いから始まる恋
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「すっごく似合ってて可愛いよ」

「っ……!用が済んだのなら帰ってください。くれぐれも、先生やくの一達には見つからないようにしてくださいね」

「うん、気をつけるよ。じゃあ、また夜にね〜」



タカ丸が去ったあと、音根は自分の熱くなった頬に手で触れた。

少し褒められただけだというのに、これくらいで鼓動を高鳴らせてしまう自分を情けなく思いながら、そのせいで、またタカ丸に断ることを忘れてしまった自分に更に情けなくなる。



「こうなったら、自分から直接伝えに行こう!」



そう思い廊下を歩いていると、前から歩いてきた同じくの一のユキに声をかけられる足を止めた。

おはようとお互い挨拶を交わし先を急ごうとする音根だが、ユキが続けて話し出してしまう。



「その髪、もしかしてタカ丸さんに結ってもらったの?」

「あ、う、うん」

「いいなぁ!でも、いつ結ってもらったの?」



その質問に音根は直ぐに言葉が出ず口を噤んでしまう。

お風呂に入ったあと結ってもらったなどと言えば、無断侵入だとバレてしまう。

だが、お風呂に入る前に結ってもらったのなら、今もそのままというのは不自然だ。

なんと答えることが正解なのかと悩んでいると、何やらユキはわかってしまったらい。



「もしかして、無断で忍たまを部屋に入れちゃったの?」



図星をつかれ、隠し通せないと思った音根は、事情をユキに説明する。

これで、先生に知られて罰則を受けることになるだろうと思っていたのだが、ユキから思いもよらない言葉が掛けられた。



「やっぱりね。安心して、誰にも言わないから」

「本当に!?」

「うん。その代わりお願いがあるんだけど」



そう言われて頼まれた内容は、タカ丸にユキの髪を結ってもらえないかと頼んでほしいということだった。

罰則を受けなくて済むのならと引き受けたものの、自分の髪結いは断ろうとしているのにとても言いにくいお願いだ。



「って、元々はタカ丸さんがくの一の長屋に無断で入ってきたのがいけないんだから、私が申し訳なく感じる必要なんてないじゃない!」



早速忍たまとくの一の共用ゆる校庭に行くと、近くにいた三人の一年忍たまに声を掛けた。

共用している場所は限られているため、忍たまの誰かに呼んでもらうしか方法がないのだ。



「四年は組の斉藤 タカ丸さんを呼んできてもらいたいんだけど頼めるかしら?」

「タカ丸さんですね、わかりました。きり丸、しんべヱ行こ」



一年生が呼んで来るのをしばらく待っていると、通りかかった忍たまに声をかけられた。

全く知らない人物だが、装束の色でタカ丸と同じ四年生であることはわかる。



「えっと……」

「あ、申し遅れました。私は忍術学園で学年一成績が優秀なら千輪の腕も学年一の、平 滝夜叉丸(たいらの たきやしゃまる)と言います。あの、もしかしてあなたは、くの一の風明 音根さんでは?」



何だかナルシストらしき濃い人に出会ってしまったなと苦笑いを浮かべていると、滝夜叉丸は初対面の音根の名を口にした。

人気のあるくの一なら、忍たまに名前が知られていても不思議はないが、自分には当てはまらない。



「何で私の名前を!?」

「同じ四年の斉藤 タカ丸さんからあなたのお話は聞いていましたので」



一体どんな話を聞いているのか気になるところだが、まさか自分のいないところで自分のことが話されているなど思わず、少し恥ずかしく感じてしまう。

そんな会話をしていると、ひょっこり現れたタカ丸がムッとした表情で滝夜叉丸に視線を向けていた。



「なんでキミが僕より先に音根ちゃんと話してるの?」

「あはは、すみません。私はお邪魔のようなのでこれで失礼しますね。では音根さん、もし私の千輪の腕を見たくなりましたら声をかけてくださいね」

「うん、その時はよろしくね」



そんな日は来ないであろうと思う音根だが口には出さず、去っていくその背を見送った。

そして、本題を話すために視線をタカ丸に向けると、先ずはユキに頼まれたことを話す。

この件に関しては、タカ丸にも責任があるため事情を詳しく説明すると、そのくらいなら任せてと笑みを浮かべる。

たが一番の問題は、もう一つの方だ。



「それともう一つ伝えたいことがあって」

「何?」

「えっと……。夜と朝の事なんだけど、断らせてほしいなって」



音根の言葉に何でと詰め寄るタカ丸だが、一番の理由はくの一の長屋に無断で侵入することだ。

現に今、ユキに知られてしまいこうなったわけで、今回はタカ丸の髪結いで秘密にしてくれることにはなったが、次に誰かに知られれば先生に報告されるかもしれない。



「わかったよ。キミにこれ以上迷惑はかけられないからね」



元気のない笑みに胸が痛むが、これが元々の規則なのだから仕方がないと自分に言い聞かせ、タカ丸と別れた後音根は自室へと戻った。

これでタカ丸が部屋に侵入することもなくなり、他のくの一や先生に知られないかとビクビクする心配もなくなったはずなのだが、何故か寂しいと思ってしまう自分がいた。



「気のせい、だよね……」



その後は、何事もなく時間は過ぎ、気づけば陽が真上に昇る時刻となっていた。

お昼を食べようと食堂へ行くと、肩を叩かれ振り返る。

するとそこには、ニッコリと笑みを浮かべご機嫌なユキの姿があった。



「風明さんありがとう!早速タカ丸さんに頼んで結ってもらったんだけどどうかしら?」

「うん、凄く似合ってるよ」



自分より可愛いユキだ、そんな女の子がタカ丸に髪を結ってもらえば可愛くないはずがない。

どんなに髪が綺麗だと言われようが、可愛い子の方がいいに決まっている。



「タカ丸さんに明日も結ってもらえないか頼んだんだけど、明日は先約があるからって断られちゃって」

「そうなんだ」



先約という言葉に、音根の胸が再びチクリと痛む。

元髪結いでくの一から人気のあるタカ丸なら、色んなくのたまから頼まれているに違いないのだから先約がいても可笑しくはない。

朝と夜自分の為だけに訪れてくれると言っていたタカ丸に、まるで自分だけが特別だと思われているような気がしていた音根だがそうではない。

食堂では、ユキがタカ丸に結ってもらったんだけど髪を自慢し始めているが、音根はお昼をさっと済ませると早足でその場を離れた。



「何でこんな感情……」



思い出されるのは先程の食堂でのくの一の会話ばかりだ。

私もタカ丸さんに頼んでみようと皆が口を揃えて言っていた。



「どうでもいいじゃない。タカ丸さんが誰の髪を結っていたって」



自分に言い聞かせるように言葉を呟くが、やはり胸の痛みは消えてはくれないまま夜が訪れた。

部屋の鏡に映る自分の姿を目にすると、朝タカ丸に結ってもらった髪が目に入る。

朝のことを思い出すと、鏡に映る音根の顔が歪む。



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