忍たま乱太郎

□髪結いから始まる恋
3ページ/3ページ


「似合ってて可愛いなんて嘘じゃない……」



鏡に映る自分は醜くて、お世辞にも可愛いなんて言えない。

今にも泣いてしまいそうな、可愛くない自分の姿を見たくなくて、音根はお風呂へと向かう。

お風呂から上がると、髪はいつも通りに戻り、これでもう思い出さなくてすむと思うとほっとするのと同時に残念な気持ちになる。

暗い気持ちのまま部屋に戻ると、部屋の中にはある人物の姿があり、音根は驚きの表情を浮かべる。



「な、なんて……?」

「えへへ、やっぱりキミの髪の手入れがしたくて来ちゃった」

「今すぐ帰って。誰かに見つかったら」

「それなら大丈夫、今日はちゃんと許可もらってきたから」



内心嬉しかった音根だが、何故タカ丸がそこまでして音根の髪を結いたいのかわからず尋ねると、返ってきた言葉に音根の顔は真っ赤に染まってしまう。

そんな音根に、顔真っ赤だよ、なんて呑気に笑うタカ丸に音根は、誰のせいだと怒る。



「僕はただ、キミが好きだからって言っただけだよ?」

「言っただけって……。ああ、なるほど。私の髪が好きとか、皆好きだよって意味のあれですか」

「違う違う。僕は、キミのことが一人の女の子として好きなんだよ」



髪でもなく友達でもなく、一人の女としての好きという意味に、音根の頭はパニック状態だ。

まず、タカ丸が自分を好きな理由など全く思い付かず、もしかしてからかわれていたり罰ゲームなんじゃないかと、部屋をキョロキョロと確認する。



「どうしたの?」

「いえ……」



特に人の気配は感じないが、もしかすると明日罰ゲームの報告をするということで見に来ていないだけなのかもしれないと思うと、罰ゲームという可能性もないとは言えない。

そして、タカ丸は一見マイペースでほわほわとした感じではあるが、もしかすると演技で、からかっているということも十分有り得る。



「何か悩んでる?」

「ええ、あなたのせいでね」

「え、僕のせい?」



全く音根の心情など知りもしないタカ丸は首を傾げ、僕何かしたかなぁと考え始める。

ほわほわとしたこの性格も、今この状況では少しイラッとしてしまう。



「だから、何故タカ丸さんは私のことを好きなのか悩んでるんですよ!!もし罰ゲームやからかっているだけなら早く帰って、っ!?」



言い終えるより先に、タカ丸の腕の中に閉じ込められてしまった音根は、一体何が起きたのかわからず固まってしまう。

そんな音根の耳元で、真剣な声音で告げられる。



「罰ゲームでもからかっているわけでもないよ。僕はキミが好きだから」

「っ……それが本当なら、一体私の何処に好きになる要素が?」



くのたまの中でも、全てにおいて普通な人間なのは自分でも理解している。

可愛いくのたまなら沢山いるというのに、そんな人達よりも自分を好きになる理由があるはずがない。



「キミはくのたまの、ううん、忍術学園で一番優しい女の子だから」



思いもしない言葉に、音根の頬はみるみる熱を持つ。



「や、優しい人なて他にも」

「いるよね。でも、僕が好きになったのはキミなんだ。他の誰でもないキミを好きになった」



タカ丸に視線を向けると、その表情は真剣だった。

嘘をついているようにも見えず、好きになった理由を改めて尋ねると、それはタカ丸が忍術学園に編入した日まで遡る。


編入してきたばかりだったタカ丸は、食堂が何処にあるのか忘れてしまい、昼刻を過ぎてようやく食堂を見つけることができた。

普通なら、近くにいる忍たまに聞いて向かえばすぐにわかるのだが、タカ丸が聞いた相手が悪かったのだ。

その聞いた相手というのが、通称決断力のある方向音痴と知られる三年ろ組の神崎 左門(かんざき さもん)だった。

そんな人物とは知らずついていくと、やはり迷ってしまい、食堂に着いた頃には昼をとっくに過ぎていた。

もう皆とっくに食べ終わり、すでに食事当番のくの一が片付けを済ませてしまっているに違いない。



「一応、覗いてみよう」



中に入ると、そこにはやはり誰一人としておらず、やっぱり遅かったんだと思ったとたんにお腹の虫が鳴る。



「お腹空いてるの?もしかしてお昼ご飯食べてなかった?」



声をかけられ振り向けば、そこには一人のくの一の姿がある。

ちょっと待っててと言いタカ丸を椅子に座らせ奥に行ってしまうと、しばらくしてくの一が顔を出し、今日のメニューではない物が目の前に並べられた。



「これは?」

「口に合うかわからないけど、私が作ったの、よければどうぞ」



美味しそうな香りにお腹が鳴ると、タカ丸は手を合わせいただきますと言い目の前に置かれた料理を食べる。

どれも美味しく綺麗に全て完食し、くの一にお礼を伝えると、気にしないでと言いながら後片付けをする。



「僕も手伝うよ」

「え、大丈夫だよ。あなたは当番じゃないんだから気にしないで」

「ううん、手伝わせて」



こうして二人で片付けを終えると、タカ丸は名前を聞いていなかったことを思い出し聞こうとするが、このあと課外授業があるんだったと思い出したくの一の子は、またねといい去ってしまった。

そのあと、タカ丸と同じ四年生にもそのくの一のことを聞いてみたが、誰一人としてその人物をしる者はいない。

あまり目立つような人ではなかったため、知っている人物が見つからず、だからといってくの一と会える機会はなかなかない。

あるとすれば、男女共用の食堂になってしまうわけだが、いつ来るかわからない人物を探すことは難しく、食堂で周りを気にしながら食べていると、聞き覚えのあることが聞こえ入り口へと視線を向ける。

するとそこには、探していた人物の姿があった。

たが、同じくの一の友達と一緒らしく声がかけられずにいると、一人のくの一が音根という名を口にする。

その日から、音根のことをいつの間にか目で探すようになったタカ丸は、あのくの一の名前が風明 音根であることを知り、何かまた話せる機会はないかと考えた。

そこで思い付いたのは、音根の髪だった。

音根の髪は他の人より綺麗で、これは話す切っ掛けになると思い色々と理由などをつけて近づいたのが、あの日タカ丸がくの一の長屋に侵入した日だ。



「あの時の……」

「やっと思い出してくれた?」



ニコニコと笑みを浮かべるタカ丸は告白の返事を聞かせてほしいというが、音根の返事は決まっていた。



「ごめんなさい」

「え……?」

「タカ丸さんが私のことを思ってくれていたのはわかったけど、正直私はタカ丸さんに恋愛感情は持ってないと思うの。それに、タカ丸には悪いけど、今の話を聞くまで気づかなかったから」



だからタカ丸の気持ちには答えることができないことを伝えると、タカ丸は顔を伏せてしまう。

傷つけてしまっただろうかと思っていると、タカ丸は何時ものようにフニャッと笑みを浮かべ、ならこれからもっと仲良くなって好きになってもらうねと言い、音根の髪を一束掬うとそっと口付けた。



「今はこれだけで我慢するよ」

「っ……!?できれば、それも辞めてほしいなぁ……」



心臓が高鳴り持たないため、小さな声で口にするが、髪をとき始めるタカ丸は集中してしまい音根の声は聞こえなかったようだ。



「何か言った?」

「はは、何でもないよ」



ハッキリともう一度言えばよかったのに言えなかったのは、きっとそれを嫌だと思わなかったからかもしれない。



髪結いから始まる恋
次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ