忍たま乱太郎

□不運は幸運と隣り合わせ
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高校生2年の夏、音根達7人は海に来ていた。

何時もは憎たらしい夏の日差しだが、目の前に広がる海を見ればそんなイライラも気にならない。



「海だー!!」



一番乗りで走って叫ぶのは、何時もなら元気一杯の七松 小平太(ななまつ こへいた)なのだが、今日は少し違うようだ。

音根は纏っていた服をその場で脱ぎ捨てると、服の下に着けていた水着で海に入る。



「おい、音根。この服どうすんだよ」

「伊作拾っといて〜」

「え?僕?」



何故か声を掛けた食満 留三郎(けま とめさぶろう)ではなく、その隣にいた善法寺 伊作(ぜんぽうじ いさく)に頼む音根。

伊作は苦笑いを浮かべながらも砂浜に脱ぎ捨てられた洋服を拾うと、立花 仙蔵(たちばな せんぞう)と中在家 長次(なかざいけ ちょうじ)が準備をしていたパラソルの下に荷物を置く。



「そういえば、小平太は何処へ行ったんだ?」

「小平太ならあそこにいるぞ」



尋ねる仙蔵に、潮江 文次郎(しおえ もんじろう)が指差す先にはすでに小さく見える小平太の姿がある。

どうやら小平太は、パラソルの下に荷物を置くなり服を脱ぎ捨て海に飛び込んでいったようだ。

どんどん小さくなっていく小平太だが、誰も心配することなく皆も服を脱ぎ出す。



「留三郎、僕達も泳ごうか、って、あれ?」



服を脱ぎながら留三郎を誘う伊作だが、すでにそこには留三郎の姿はない。



「留三郎なら文次郎と海に入って行ったぞ」



仙蔵の言葉で海に視線を向けると、また二人は何かで勝負をしているのか凄い勢いで泳いでいる。

犬猿の仲とも言える二人は海に限らず学校でも、勝負だと言い毎日顔を合わせると喧嘩や勝負をしている。



「海に来てまで喧嘩しないでよ〜。そういえば、仙蔵と長次は海に入らないの?」



長次は海パン姿、仙蔵は海パンとラッシュガードまで羽織り二人ともパラソルの下に座っている。

そんな話をしていると、泳がないのかと声をかけられ三人の視線が向けられた。

するとそこには、先程まで豆粒サイズしか見えなかった小平太の姿がある。



「もそもそ……俺はいい」

「私もここでゆっくりさせてもらう。それよりも小平太、お前いつの間に」

「さっきまであんなに遠くにいたのに」

「ああ、喉が渇いたんで飲み物を飲みに来たんだ」



そう言い自分の持ってきた荷物の中からペットボトルを取り出しごくごくと飲み始める。

飲み終えたあとは、いけいけどんどんと大声で何時もの言葉を叫びながらまた海へと入っていく。

すでに遠くまで泳いでいく小平太の姿は、先程と同じ豆粒サイズになっている。



「もうあんなところに行っちゃった」

「アイツのバカ元気なところは見ていて清々しいな。普段なら暑苦しいところだが」

「もそもそ……伊作も海に入ったらどうだ」



無口な長次の小さな声に伊作は頷き、そうだねと返事をすると、軽く準備体操をしてから海へと入った。

流石、小学生からずっと保健委員をやっていただけはある。

海に入ると音根が、海の中を歩いている姿を見つけ、これはチャンスだと思い近づいていく。



「音根」

「あ、伊作。伊作って泳げたんだね」

「うん。小学生の頃は泳げなかったんだけどね。そういう音根は泳がないの?」



先程から音根は歩いているだけで泳いでおらず、小平太並にはしゃいでいたのにと不思議に思っていた。

すると音根は苦笑いを浮かべながら、実は泳げないんだよねと答える。



「そうなの!?音根ならスイスイ泳いじゃいそうだけど」

「うん、よく言われる。でも、現実はそうはいかなくてね」



今まで伊作は不運なことばかりが起きていた人生だったが、これは幸運が回ってきたのかもしれない。

このチャンスを逃さないために、伊作は泳ぎの練習をしてみようと音根を誘う。



「でも、伊作に悪いから」

「ううん、気にしないで。悪いどころか幸せだよ」

「え?」



つい心の声が漏れてしまい、しまったと頬を染めるが、誤魔化すように伊作は、もう少し岸の近くで練習しようと言い歩き出す。

そして、なるべき仙蔵と長次の視界に入らない場所へ行くと、早速音根に泳ぎを教える。

勿論少しでも音根の力になれたらと思ったのは本当だが、下心がないかと言われれば嘘になる。



「じゃあ、先ずは僕の手に掴まって」



音根の手をしっかりと握り、先ずは基本の泳ぎを練習する。

手を握るだけで鼓動は高鳴ってしまうが、冷静を保ちながら泳ぎを教える。


それからしばらくすると、のみこみが早い音根は少しだが泳げるようになっていた。

まだ長くは泳げないものの、数分で覚えたにしては早い上達ぶりだ。



「やっぱり、元々運動神経がいい人は上達も早いね」

「そんなことないよ。きっと、伊作の教え方がよかったからだよ」



ニコリと笑みを浮かべありがとうと礼を口にする音根が可愛くて、気づけば抱き締めていた。

慌てて離れごめんと謝る伊作だが、音根は全く気にしていない様子でクスクスと笑い出す。



「伊作ったら、クラゲに驚くなんて可愛い!でも、まさかこんな岸の方にクラゲがいるなんて思わないしむりもないよ」



音根の視線の先を見ると、そこにはクラゲの姿があり、今度は驚いて音根に抱きついてしまう。

なんとも情けないことに、音根には二回もクラゲに驚いていたと勘違いされてしまい、やっぱり不運だと嘆いてしまう。


それから二人仙蔵と長次のいるパラソルに戻ると、持ってきたお弁当を広げる。

泳ぎかに行った他の三人もお腹が空いたらしく戻ってくると、皆でお弁当を囲み昼食を取る。



「沢山作ってきたから、皆一杯食べてね」



音根が作ったお弁当のおかずはどれも美味しく、最後に残った唐揚げは皆で取り合いとなった。

止めに入る伊作と音根だが、こうなってしまった五人を止めることは誰にもできない。



「この唐揚げは私が頂く」

「仙蔵、お前は泳いでねぇだろう。今まで泳いでいた俺はお腹が空いてんだよ」

「留三郎、それなら俺もだろうが」

「なら私もだな!私はいけいけどんどんだったからな」

「もそ……」



その光景に苦笑いを浮かべるしかない二人だったが、このままでは収まらないと思った音根は箸で残った唐揚げを一つ掴むと、伊作の口へと運ぶ。

目の前に差し出された唐揚げに戸惑っていると、あーんと言われたため、躊躇いながらも伊作は口を開ける。



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