忍たま乱太郎

□視線の先には
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「あと気になってたんだけど、中庭で滝夜叉丸と風明先輩が話してるのをこの前見かけたんだけど、何の話をしてたんだ?」

「ああ、あの時か。あれは、忍術学園に来て日が浅い風明先輩が、私に場所を聞いてきたんだ」



勿論場所を教える前に、滝夜叉丸の得意武器である千輪の輪子のことや自慢話を聞かせたのだが、音根はその話を真剣に聞いていたようだ。

他の忍たまなら聞き流してしまうというのに、わざわざ千輪を使う姿が見たいとまで言っていたらしい。

楽しげに笑みを向ける音根に、滝夜叉丸はその後、忍術学園の中を案内して回ると、その間も音根は滝夜叉丸の話に笑みを浮かべたり、時には驚いたりと真剣に話を聞く。

いつも自分が話せば、目の前の相手はうんざりしているか、聞いているのかいないのかわからないような態度だったり、時にはいつの間にか逃げたしている者までいたというのに、年下の自分にもこんなに優しい言葉をかけてくれる音根に、滝夜叉丸は惹かれていった。

だが、そんな時間も過ぎていき、音根と別れたときには、不思議と心にポッカリと穴が空いたような感覚となり、それから誰に自分の凄さを伝えても、何故か気持ちが落ち込んでしまうようになっていた。



「私の頭からは、あの風明先輩の笑顔が忘れられなくなり、また会って話したいと思うようになったんだ」

「なんだ、滝夜叉丸にしては普通の恋だな」

「そうだね。でもいい話だよね〜」



何だかんだで普通の男だったんだなと納得している四人だが、恋をしたのなら、何かしらのアプローチはしたのだろうかと滝夜叉丸に尋ねる。

だが、どうやらあの日以来、音根を見かけることはあるものの、声をかけてはいないらしく、正確に言えば、何と声をかければいいのかわからないようだ。



「あ、ならタカ丸さんに協力してもらったらいいんじゃないか?」

「タカ丸さんは風明先輩と仲がいいんですか?」

「そっか、守一郎は途中から来たから知らないんだったね。タカ丸さん、風明先輩とは同じ火薬委員で仲がいいみたいだよ」



首を傾げている守一郎に喜八郎が教えると、どうやら滝夜叉丸も知らなかったらしく、タカ丸に頼み込んでいる。

そんな滝夜叉丸に、タカ丸はふにゃりとした笑みを浮かべながらいいよと頷く。



「じゃあ、今から六年生の長屋に行こっか」

「えッ!?今ですか!?」

「うん。丁度音根ちゃんに用事があったところだから」



今から音根に会えると思うだけで、滝夜叉丸の胸は早鐘を打ち、ご飯を掻き込むようにして食べ終えると、早速二人六年の長屋へと向かう。

あの日以来、見かけることしかなかった音根とまた会って話せるのだと思うと足が軽く弾むようなのだが、その前に一つ、滝夜叉丸には気になることがあった。



「何でお前らまで着いてきてるんだッ!!」

「滝夜叉丸にここまで思わせる相手がどんな人物なのか興味あるからな。まぁ、ユリコには敵わないだろうがな」



ユリコとは、三木ヱ門が何時も紐を付けて持ち歩いている石火矢であり、他にも名前をつけている物も存在する。

因みに石火矢とは、昔の大砲であり、火薬の力で小石や鉄片を飛ばす武器のことをいう。

その大砲に三木ヱ門は名前をつけており、とくにユリコとは毎日一緒にいる。

勿論現在も、石火矢のユリコを引きながら廊下を歩いている。


どうやら皆、滝夜叉丸にここまで思わせる相手が気になるらしく、結局皆で音根の部屋に来てしまった。

戸が開いていたためタカ丸が声をかけると、そこには音根の姿があり、どうやら同室である伊作と留三郎の姿はないようだ。



「あ、タカ丸くんどうしたの?」

「うん。今日あるはずだった委員会の集まりがなくなった報告をしに来たんだ」

「そうなんだ。わざわざありがとうね」

「それと、皆が音根ちゃんと話したいんだって」



皆とは一体誰だろうかと首を傾げていると、タカ丸の背後から数人の忍たまがひょっこりと顔を覗かせる。

装束の色で、タカ丸と同じ四年生の忍たまだとわかった音根は、皆を部屋の中へと招き入れた。



「今丁度、伊作くんも留三郎くんも出掛けてるから。えっと、話したいことってなにかな?」



小首を傾げる仕草や優しい言葉遣い。
それは、男勝りなくの一教室のくのたまとは天と地ほどの差があるほどだ。

女で忍たまなんてどんな男勝りな人物なのだろうかと思っていた三木ヱ門も、予想していなかった自体だ。

勿論、滝夜叉丸とタカ丸以外は、こうして話すのは初めてのため、皆三木ヱ門と同じで驚きが隠せずにいる。

そんな誰も口を開かない中、音根は滝夜叉丸と目が合い、あっ、と声を上げた。



「滝夜叉丸くんだったよね!あの時は色々と教えてくれてありがとうね。お陰で今ではすっかり場所も覚えられたよ」

「い、いえ!!お役にたてたのならよかったです」



最初に会った時と様子が違うことに気づいた音根は、もしかしたら皆緊張しているんじゃないかと気づく。

今は自分だけしかいないから緊張しなくていいからねと声をかけるが、その返事は緊張そのものだ。



「タカ丸くん」

「ん?な〜に?」



音根はタカ丸を手招きし呼ぶと、何故皆はあんなにも緊張しているのかと耳打ちする。

すると、音根ちゃんが可愛いからだよと冗談を言われてしまう。

そんな音根とタカ丸の姿に嫉妬したのは滝夜叉丸であり、何か注目を自分にしなくてはと話を考える。



「風明先輩」



突然呼ばれ視線を向けると、鋭い視線を向ける滝夜叉丸の姿がある。

一体どうしたのだろうかと言葉を待つと、聞こえてきた言葉は意外なものだった。



「風明先輩、私だけを見ていてください」



その言葉に、音根以外の四年生は遂に滝夜叉丸が告白をしたとわかり、次に気になるのは音根の返事だ。

まだ今日で話すのは二度目であり、告白には早い気がした皆だが、滝夜叉丸本人は自分の口から出た言葉に頭の中がパニックを起こしていた。

嫉妬から出てしまった言葉が、まさか告白、それも四年生の皆がいる前ですることになるなど本人すら予想できるはずがない。

そんな滝夜叉丸にかけられた言葉は、わかったよと言う了承だった。



「ほ、本当ですか!?」

「うん。滝夜叉丸くんのことは色々と聞いてるけど、注目が自分に向けられないのが嫌だったんだよね?」

「はい?」

「大丈夫!!私は皆好きで、皆に注目してるから」



なんて言いながらグッと親指を立てる姿は可愛いが、滝夜叉丸の告白はどうやら、告白として受け取られなかったらしく肩を落とす。

そんな滝夜叉丸とは違い、何故か皆嬉しそうなのは、自分にもチャンスはありそうだとわかったからだ。



「そうだ!今日仙蔵からもらったお団子があるんだけど、丁度人数分あるから一緒に食べよっか」



そう言いながらお団子が包まれた包みを広げる音根の目の前では、ニコニコと笑みを浮かべる四年生達と、一人だけ暗い滝夜叉丸の姿がある。

そしてその日以降、四年生達のアプローチが始まったわけだが、一体誰が音根のハートを射止めることになるのか。

それはきっと、出会ったあの日から気になっている人物であり、今音根の視線の先にいる人物なのだろう。

だが、今はその視線に気づく者はまだいないようだ。



視線の先には
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