忍たま乱太郎
□湖の逢い引き 後編
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「安心して。黒古毛さんの話では、忍術学園の校医の新野 洋一先生がおばちゃんの様子を見てくれてるみたいだから、きっと直ぐによくなるわよ」
新野が見ていると聞いて安心したのか、三人の表情が安堵に変わる。
だが、お昼になればその表情はまた変わることになるだろう。
何故なら、朝食は音根に任せてしまったからと、お昼は般蔵が作ることになっているから。
それからしばらくして忍たま達が食堂から出ていくと、音根は後片付けをする。
皆がいなくなった食堂は一気に静けさを取り戻し、一人になった今は何だか寂しく感じてしまう。
それから片付けも終わり、ようやく一息吐こうと思ったのだが、一人で頑張り過ぎたのかうとうととしてしまい、食堂の椅子に座ると眠ってしまった。
「んっ……あれ?私寝ちゃってたんだ」
目を覚まし伸びをすると、パサリと床に何かが落ちる。
視線を下に向けると、そこには一枚の羽織が落ちており拾い上げる。
「誰かが掛けてくれたのかな」
そう思ったとき、何故か利吉の姿が脳裏に思い出され、頬が熱くなる。
「って、何で利吉さんが浮かぶのよ!もう、折角昨日のこと忘れてたのに、また思い出しちゃうじゃない……」
そっと唇に触れると、昨日の感触が思い出されて鼓動が高鳴る。
いくら考えてもあの行動の意味はわからず、すみませんと最後に呟かれた利吉の言葉が頭の中で何度も繰り返される。
あの謝罪の言葉は、口づけをしたことにたいしてなのだろうが、何故あんなことをしたのか肝心なことはわかっていない。
「それにしても、一体この羽織は誰のなんだろう」
最初は何故か利吉の顔が浮かんだものの、改めて見てみれば羽織は女物だ。
女と言えばくの一教室の生徒や先生が思い出されるが、誰の物かわからなければ返しようがないため、どうしようかと考えていると、食堂に般蔵が戻ってきた。
手に持っているのは空になった器であり、どうやらおばちゃんが食べたお粥の器のようだ。
「おばちゃんの様子はどうでしたか?」
「大分よくなってきたみたいで、今日一日安静にしていれば大丈夫なようだ」
その言葉に安堵すると、自分に掛けられていた羽織のことを思い出し、この羽織に見覚えがないか般蔵に尋ねてみる。