忍たま乱太郎

□湖の逢い引き 後編
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「ああ、それなら確か――」



般蔵からその人物の名を聞いた音根は、その人物は何処に向かったのか聞くと、羽織を手にその場所へと向かう。

いつも音根が休憩をする場所。
そこには、羽織を音根に掛けた人物の姿があった。

木に背を預け座り、顔を伏せてしまっている人物は眠っているのか起きているのかわからない。
だが、音根にはその人物が起きているという確信があった。



「この羽織、利吉さんが掛けてくださったんですね」



そう、プロの忍者ともなれば気配で起きていると確信していた。
昨日もそうだったように。

利吉は伏せていた顔を上げると、気持ち良さそうに寝ていたのでと、何時もと変わらない笑みを音根に浮かべる。

自分はこんなにも昨日から利吉のことばかり考えて、今も鼓動を高鳴らせているというのに、何も変わらない利吉を見ていると、やっぱり昨日のはただのイタズラだったんじゃないかと思えた。



「羽織、ありがとうございました。でも、昨日のは、イタズラだとしてもやりすぎです」



ムッと怒る音根に、利吉は苦笑いを浮かべながらすみません、と昨日のように謝る。

そんな利吉の言葉に、何故か音根の胸は苦しくて仕方がない。



「謝るくらいなら、しないでよ……」



つい口から溢れてしまった言葉に、利吉も、そして音根自身も驚いていた。

まるで、別の言葉を期待していたかのような自分の発言が恥ずかしくて、音根はその場から走り去る。

とは言っても、音根が動ける範囲など学園内しかなく、中庭から離れた場所まで来ると、乱れた呼吸を落ち着かせる。



「私、何であんなこと言っちゃったんだろ」



昨日からずっと考えて、利吉のことで頭が一杯になって。

イタズラだと思った。
でも、もしかしたら別の答えが返ってくるんじゃないかと期待する自分がいた。



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