忍たま乱太郎
□自分にしか出来ないこと
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「剣術の修行もほどほどにしてくださいね」
「そうはいかぬ。私はまだまだ未熟だからな」
「そんなことないですよ。戸部さんは十分凄い剣術の使い手だと私は思います。兎に角、倒れるまでは絶対にダメですよ!」
「あ、ああ。気をつけるとしよう」
照れるようなぎこちない笑みを浮かべると、新左ヱ門は刀を鞘へと収め、今日の修行を終える。
すると新左ヱ門は音根へと向き直り、何かあったのかと尋ねる。
「元気のないように見えたのだが」
「あはは、わかっちゃいますか?実はこの前、一年は組の授業に同行させてもらったんです」
合戦を見学しに行ったことや、その時に感じた恐怖や不安を音根は全て新左ヱ門に話した。
自分がいた世界は平和であり、忍者という存在すらいなくなっている。
そんな世界から突然、別世界、それも戦が行われているような危険な世界に来てしまったのだ。
それを目の当たりにして恐怖を感じない訳がない。
静かに話す音根の肩に、ぽんっと手が置かれ視線を向けると、新左ヱ門の視線と重なる。
「恐怖を抱かない者などいない。勿論私も、恐怖を感じることもあった」
「戸部さんもですか?こんなにお強いのに……」
剣豪と呼ばれる新左ヱ門でも恐怖を感じることがあるのだと知り、驚くと同時に疑問が頭に浮かぶ。
「なら何故、刀を持つのですか?」
「恐怖に怯えていても、守ることはできないからだ」
「守る……」
「そうだ。自分の身は勿論、大切な者すら守れない弱い自分は捨てなければならない」
新左ヱ門の言葉に励まされ、こんな臆病な自分じゃ駄目だと感じた。
忍たまやくの一の皆のように忍術もできない。
新左ヱ門のように剣術も出来るはずがない。
それでも、今の自分を変えることは出来るかもしれない。
「私も捨てられるでしょうか、恐怖を……」
「私は剣の道を極めるため、弱い心は捨てた。だが、貴女にはその必要はない」
「何故ですか?私も弱い心は捨てないと、弱い自分を捨てないと、自分の身くらいは自分で守らないと……!!」
音根の手には力が込められているが、その体は恐怖で震えていた。
そんな音根の姿に、新左ヱ門は口許を緩ませる。